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<純烈物語>なぜ純烈は身のほどをわきまえられたのか? 酒井一圭の「俯瞰する才能」を開花させた原体験<第16回>

第16回 なぜ純烈の“身のほど”をわきまえられたのか 酒井一圭の俯瞰する才能を開花させた原体験

 自分で聞いておきながらなんだが、今も関係性が続いているというのにここまでメンバーを誘った真意とその後にどんな接し方をしてきたのか、あからさまに晒していいものなのか。本人にさえ言っていないことも中にはあるだろう。酒井一圭の話にうなずきながら、そんな思いが頭をもたげてきた。 「あー、この連載用に話していることのほとんどはメンバーも知らないと思います。僕がやっている仕事の7割は見ていないし」  そうは言うても、ふすま一枚隔てて隣は他のメンバーがいる控室でっせ、酒井さん――そう口に出かけたが、話が止まらないので差し込むスキがなかった。純烈のメンバーであるとともにプロデューサーだから、ステージ以外の仕事が山ほどある。  それらをいちいち報告したり説明したりする時間があるぐらいなら、抱えているミッションを少しでも進めた方がいい。現在はスタッフも増えたので任せているが、昔はブログやホームページの更新もリーダーがしこしことやっていた。  リーダーとしてメンバー全員を直接誘って集めたということは、一人ひとりの生活や人生を預かったことになる。「俺の言うことに耐えて、やるべきことは絶対にやれよ」の言葉は、裏を返せば自分自身の退路を断ったようなものだ。彼らを“絶対”に成功へ導かなければならぬ責任を負ったのだから。  白川裕二郎と小田井涼平は当時の所属先から得ていた給与を捨ててきた。林田達也と友井雄亮はそれまでの活動とアルバイトの両立だったが、これも純烈一本に専念する必要があった。後上翔太にいたっては、大学を中退させた。  いきなり限りなく無収入に近い状態となったら、家賃も払えない。酒井は、自身が関わっていたビジュアルボーイなどからの収入で白川と小田井の分を補てんした。あとの3人には、まったくの無名にもかかわらずその場のノリで「いいぞ、兄ちゃんたち!」と投げられた“おひねり”を渡した。 「嫁と子どもがいる立場なのに、こっちへ回してくれるなんて……酒井さん、マジなんだ」  そういう熱量の見せ方を酒井はしてきた。メンバーにカッコつけたところで一銭にもならない。純烈を形にしていく上で、そうする必要があったからやるだけだった。

■「純烈全体を見て動かすために孤独を貫いている」

「会社から見ればメンバーの一人であり、メンバーから見ればグループのリーダーだけど会社の人と映っているんだと思います。メンバーの楽屋にはいないでスタッフルームにいると『リーダーは何を喋ってんだろう?』と気になるようなね。この取材中も、そう思ってんじゃないかな。純烈全体を見て動かすために孤独を貫いている。孤独といっても孤立じゃなく、どこのポジションにも属さないという意味でね。  特定の誰かの味方でもなく、純烈の人間なのに純烈から一歩引いた立ち位置で俯瞰(ふかん)している。だから、メンバーと接するのは本当にステージ上と全員で取材を受ける時ぐらいで、それはスタート時から変わっていない。その距離感が一番適切なものとして確立している。その独特さがあるから、純烈は芸能界の中で違和感があるのかもしれないです」  自分自身がやっていることに対し客観的になれる。リーダーとして必須条件だとわかっていながら、野心を持った人間ほどそれを見失いがちだ。  ましてや酒井は、子どもの頃から演者として神輿を担がれてきた男(一方で手荒くそこから引きずり降ろされたこともあっただろうが)。我を通しやすいポジションにいる分、自分しか見えず周りまで考えられなくなる可能性もある。  にもかかわらず、酒井は出航当初から驚くぐらいに純烈の“身のほど”をわきまえていた。歌はヘタクソ、人気もない、ムード歌謡という地味なジャンル……それらのマイナス要素をちゃんとマイナスと受け止めた上で、プラスに転化していく方法論を追求していった。  マイナスだからダメだ、できないではなく、マイナスからプラスに変わる物語を武器にする。この発想ができる人間は、精神的にタフである。  では、そのタフネスな思考はどうやって養われたのだろう。決定的な何かが、過去にあったはずだ。「こういう姿勢が当たり前だから、何によってそうなったかは考えたことなかったですけど……」と言ったあと、しばしの沈黙をはさみ酒井は続けた。
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まるで太刀打ちできなかった子役の世界
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