松本人志の苦言に最後、一矢報いた「ニューヨーク」
18時34分。ついに「M-1グランプリ2019」決勝戦がスタート。今までならば放送開始直後、敗者復活戦の結果発表となるが、今回は決勝戦の順番を決める「笑神籤」の札に敗者復活戦から勝ち上がった漫才師の名前ではなく、「敗者復活戦組」という札が入ることになった。それが出たときに結果発表。だから全員、出番直前までわからない。戦いはまだ続く。
ファーストラウンドが始まった。トップバッターは「ニューヨーク」。紹介VTRには「毒と皮肉」の文字。「M-1」を黒く塗りつぶすしてくれると思いきや、普段と違い屋敷君が優しい。「女子は『LINEが既読にならない』とかに大喜びするから」。確かに皮肉っている。ただ、この台詞の「大喜びするから」やその後の「喜ぶから」の部分が優しい。
©M-1グランプリ事務局
ここでは詳しくは書かないが、いつもの彼なら「どう喜ぶのか」で毒がある。それがない。確かにコンプライアンスが厳しい世の中になった。ただ、これでは個性が死んでいる。「ニューヨーク」の知名度は全国的に見れば、まだそこまで高くはないだろう。審査員の方も彼らの存在を知らない人のほうが多いと思う。だから、変えたことも知らないからそれでいいのかもしれない。
ただ、俺は「ニューヨーク」のイチファンだっただけにショックだった。大好きなバンドがメジャデビューしたような感覚だ。点数は伸びず616点。 審査員の松本人志さんが屋敷君に「笑っているツッコミがそんなに好きじゃない」と言った。完全に同意である。
昔から俺も嫌いで相方には「絶対笑うな」と口が酸っぱくなるほど言っていた。笑うことに意味があるならいい。そうでないなら否定する側が笑うなと思っている。影響力のある方の発言でこれから減っていくことを期待する。
ただ、屋敷君は笑ってはいなかったように思う。そういう顔だから、笑っていると思われたのかも知れない。しかし、ここでの「ニューヨーク」の振る舞いはさすがだった。 会場を大いに盛り上げた。ふてくされる屋敷君。この屋敷君を俺は待っていたのだ。
2番手は「かまいたち」。順番が決まった瞬間に苦い表情を浮かべる濱家君。リアルタイムで見た際は、順番を嫌った顔かと思ったが、録画を見返してみると気合を入れた顔のようにも見えた。どっちもだったんだろう。
ふんどしを締め直した結果、「かまいたち」は躍動する。演技力の高さを遺憾なく発揮するネタ。腕の動きだけで笑いを誘う。濱家君も動き回り、笑いが渦になる。660点。2番手にしてこの高得点。審査員大絶賛で締めた。
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高得点の「かまいたち」後の3番手。絶対避けたい3番手。取り出された札はなんと「敗者復活組」だった。前回の記事で、ボルテージが上がる「敗者復活組」は超有利だと俺は予想した。 あの「かまいたち」の直後に彼らを超えられるのは「敗者復活組」しかいない。
第1位は「和牛」だ。2位の「ミキ」と18万票の差をつけての圧勝だった。即座に会場に向かおうとする「和牛」。司会の今田耕司さんが言うように「漫才をやりたくて仕方ない」2人。会場入りし、舞台へ進軍。
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「和牛」のネタは「敗者復活戦」と同じものだった。彼らのネタは「物語」系のネタだ。こういったネタは、ネタバレすると鮮度が落ち笑いの量が少なくなる。しかし、「和牛」はそこに「人」の面白さも乗っている。川西君が面白く、キャッチーな台詞もある。伏線部分がボケになっていて、回収時にはさらに大きな笑いへとなる。決勝の舞台でも問題のない出来だった。652点。「かまいたち」には8点及ばなかったが十分な高得点。
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存在感を示した初出場組のパフォーマンス
前半での高得点連発。ここから尻すぼみになっていくのは番組的にも避けたいところ。ここで4番手に「すゑひろがりず」が登場。何というくじ運。比較されるには最高の順番を引き当てた。
ネタも「合コン」とわかりやすく、それをどういうふうに伝統芸能を絡めるのかだが、「一気」コールを「めして」でコール。ボケると見せかけてボケないという「すかし」もあり、ボケのバリエーションも見せたが、基本的には「『なに』を『どう』言うか」であり、時間の経過とともにハードルが上がっていった。637点。存分に力を発揮したと思う。これは仕事が増えるぞ!
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5番手は「からし蓮根」。コントへの導入部分やボケ数、ツッコミのワード、右肩上がりの構成など、コンビ結成6年にして本当に素晴らしい漫才をしたと思う。ただ「かまいたち」と「和牛」のあとではどうしても、物足りなく見えてしまう。それに杉本君がツッコミが熊本訛りなら 最初に自己紹介で「熊本出身」と言っておいほうがよかったと思う。そうすれば観客も違和感なく受け入れられただろう。639点。
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審査員の上沼さんが大暴れ。突然の「和牛」ディス。本当にに上沼さんは最高だ。すでに完成された漫才師である「和牛」に対してもがむしゃらさを求め、さらなる高みを目指してほしいと奮起を促すのだ。
「本調子ではないのではないか」という松本さん。こちらもさすがだ。準決勝のほうが「からし蓮根」の出来はよかった。こういったごまかしの効かない「目」を持った審査員がいるからこそ、「M-1グランプリ」はほかの大会を一線を画す最高峰の大会なのである。
6番手は「見取り図」。一つひとつが面白い。たとえも面白いし、その返しも面白い。噛んだところもボケで立て直す。「ベビーフェイスの和訳一緒かな」「人褒めるときに『リボ払い』って出てくる?」「10代相手に粋がるな」「ディエゴのおっちゃん」「お前の行くとこ行くとこ『SUV』停めたろか!!」。書きだしたら切りがないくらい印象に残るワードが出てくる。昨年よりも数を打ち、そのどれもが強く、しっかり「上積み」してきた「見取り図」。圧巻の漫才だった。
©M-1グランプリ事務局
今までの大会ではいい出番順だった4番目、5番目が「かまいたち」「和牛」に迫れない中、「見取り図」の点数は649点。3位に食い込んだが、「和牛」に3点及ばなかった。