更新日:2023年05月15日 13:15
エンタメ

M-1制覇のミルクボーイ、苦節12年の奇跡が起きた激闘ドキュメント

「ミルクボーイ」が巻き起こした大爆笑に会場が揺れる

 終盤へと向かう。逃げ切れるかと思われた「和牛」がジリジリと迫られる。しかし、「かまいたち」は抜かれることはないだろうと思っていた7番手。ついに「ミルクボーイ」の登場である。  決勝当日の記事で俺は「ミルクボーイ」のことを「順番が何番になろうとも、決勝の舞台で爆発するだろう。絶対にハマる」と書いた。それが、こんな最高の出番順を引くとは思わなかった。この順番で「ミルクボーイ」がハマらないわけがない。 【参照】⇒「M-1グランプリ2019」決勝進出9組のネタの見どころを徹底解説  そして、その日一番の大爆発がおこった。会場大爆笑。審査員も大爆笑。あまりにも大爆笑すぎて、周りを見渡す松本さん。点数はなんと681点。7人審査員体制の大会では史上最高得点だ。

©M-1グランプリ事務局

 塙君がいう「人の力と言葉の力とセンス」。まさにそのとおりであり、大きな要素を占めるのが「人の力」だ。ここまでの説得力を持たせられる力。本気で解決しようとしている内海君の力強さがないと大爆笑は生まれない。抜かれることはないだろうと思われた「かまいたち」の得点を21点も上回り、1位へと躍り出た。 

2008年、「オードリー」「ナイツ」以来の快挙

 今回の「M-1グランプリ」はなんと強運な番組なんだろうか。高得点を叩き出した「かまいたち」「和牛」のあとがまったく色の違う「すゑひろがりず」だったが、さらに最高得点を叩き出した7番手の「ミルクボーイ」のあとは、まったくトーンの違う「オズワルド」が8番手として登場する。

©M-1グランプリ事務局

 静かな立ち上がりはいつもどおり。そこから伊藤君は少しずつテンションを上げていく。無理はしない。感情に忠実に上げていく。しっかりと空気を作り上げた。得点は638点。「ミルクボーイ」と逆ならばまた違った点数になっていたと思う。ここで「ミルクボーイ」の最終決戦進出が決定した。残りの椅子は2つ。9番手に出るコンビは、即最終決戦進出を決めることも可能だ。 「インディアンス」が登場した。前半のボケはウケている。ただ、大きな笑いが起きるが、持続しない。キム君がツッコむまで、田淵君がボケ続けるのだが、お客さんはツッコミ待ちをしているのか、その前のボケで大きな笑いが起きない。終盤、トーンを下げるボケがあり、お客さんのトーンが下がってしまった。痛恨。得点632点。即敗退となってしまった。

©M-1グランプリ事務局

 2007年第7回大会から続いた、9番が必ず最終決戦に行くという「ラッキーナンバー9番神話」がついに崩壊した。「かまいたち」は最終決戦へ。  ラスト10番は唯一の吉本以外の事務所所属の「ぺこぱ」。最初の自己紹介での松蔭寺君の首振りがいつもより長い。それを見て、自分が『M-1』に出たときのことを思い出した。俺もラストに出たことがある。そのときには、当然ながら敗退者がすでにいた。そこで「負けたってどうってことない」という思いになり、腹もくくれて100%の力を発揮できた。  今日の松蔭寺君は完全に腹がくくれている。どんどん説得力が増していく。まるで教祖のように訴えかけて笑いを作る。 舞台を立体的に使い、会場は爆発し、最高の出来で漫才を終えることができた。得点は654点。「和牛」を2点超え、最終決戦進出を決めた。これは実に7大会ぶり、吉本以外の芸人としては2008年の「オードリー」と「ナイツ」以来の快挙となる。

©M-1グランプリ事務局

「和牛」が敗退した。彼らは今大会をもって「M-1」を卒業すると放送終了後に語ったという。ただ、俺は心配していない。 そんなわけはない。いいネタができ、出場資格があるならば出たくなるはずだ。そして、「和牛」はいいネタが必ずできる。来年の8月には普通にエントリーしています。必ず。

史上最高の「漫才ドリーム」達成…

 最終決戦。順番は「ぺこぱ」「かまいたち」「ミルクボーイ」。まず、「ぺこぱ」。連続でネタ披露となる。不利かと思いきや、それが逆に功を奏し、さらにお客さんをハメていった印象だ。「悪くないだろう」。

©M-1グランプリ事務局

 続いて「かまいたち」。準決勝で披露したネタだ。そのときからずっと気になっていることがある。最後に見せた「客いじり」。元来「客いじり」をやることは芸人の中では「汚れ」とされる行為だ。お客さんをイジって笑いをとったというわけではないが、それでも「M-1」の舞台でやることに違和感を覚えた。それに、あそこまでウケていたのに、あの部分で一瞬、空気も止まったのでなおさらもったいなかったと思う。

©M-1グランプリ事務局

 そして、ラストが「ミルクボーイ」。実は「M-1」では最初のつかみに当たる「ベルマークをいただきました」をやるかやらないかで迷っていたという。しかし、やることに決めた。続けたおかげで2本目ではつかみから大きな笑いに包まれた。そこからはもう彼らが舞台を制圧した。文句のつけようがなかった。

©M-1グランプリ事務局

 優勝「ミルクボーイ」。  今年、テレビで初めてネタをしたという彼ら。その舞台が「M-1グランプリ」で、しかも優勝。 この漫才ドリームは「サンドウィッチマン」以上である。おめでとう!!

©M-1グランプリ事務局

<取材・文/ユウキロック>
1972年、大阪府生まれ。1992年、11期生としてNSC大阪校に入校。主な同期に「中川家」、ケンドーコバヤシ、たむらけんじ、陣内智則らがいる。NSC在学中にケンドーコバヤシと「松口VS小林」を結成。1995年に解散後、大上邦博と「ハリガネロック」を結成、「ABCお笑い新人グランプリ」など賞レースを席巻。その後も「第1回M-1グランプリ」準優勝、「第4回爆笑オンエアバトル チャンピオン大会」優勝などの実績を重ねるが、2014年にコンビを解散。著書『芸人迷子

芸人迷子

島田紳助、松本人志、千原ジュニア、中川家、ケンドーコバヤシ、ブラックマヨネーズ……笑いの傑物たちとの日々の中で出会った「面白さ」と「悲しさ」を綴った入魂の迷走録。

⇒試し読みも出来る! ユウキロック著『芸人迷子』特設サイト(http://www.fusosha.co.jp/special/geininmaigo/)
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