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M-1制覇のミルクボーイ、苦節12年の奇跡が起きた激闘ドキュメント

「M-1グランプリ2019」は結成12年目「ミルクボーイ」の鮮やかな優勝で幕を閉じた。全審査員が96点以上をつけ、700点満点で採点される大会としては2004年に「アンタッチャブル」が記録した歴代最高得点673点を大きく更新する681点を獲得しての快挙だった。

©M-1グランプリ事務局

先輩からの飯の誘いを断り続けて

 生放送の最後、司会の今田耕司さんが駒場君に「先輩のご飯の誘いをずっと断って漫才に懸けてきた」という声をかけていた。まずはそれについて少し触れたい。  駒場君は先輩からのお誘いが多い芸人だった。彼もそれに甘えていた。その間、内海君はずっと彼を待っていたのだ。これでは駄目だと思い、駒場君は先輩からの誘いを断り続けた。しかし、それは軋轢を生むことになった。駒場君の結婚式にその先輩たちを招待したが、彼らは出席しなかった。  それでも駒場君は内海君との漫才に懸けた。次第に後押しをしてくれる先輩も現れた。「絶対面白いからこのスタイルを続けろ」、そう助言してくれる先輩に駒場君はポツリと言った、「こんな話を先輩としたかった」と。  迷いはない。仕事がないからバイトをしなければならないが、それ以外の時間はネタ合わせに費やした。毎日毎日それを続けた。「ミルクボーイ」の優勝を一緒に見届けた中堅芸人が言う、「結成12年目で仕事がなくて、『M-1』優勝。 夢あるな」と。また別の中堅芸人が言う、「けど、辞めない人も増えるね」と。

©M-1グランプリ事務局

 はっきり言う。「情熱」と「努力」と「覚悟」がなければ、到達しないし、あっても到達しないかもしれない「夢」なのだ。どれか一つでもかけている芸人はすぐに辞めたほうがいい。 「THE MANZAI」の予選で1回戦敗退した夜に角刈りにして、「面白いこと」以外を一切排除した内海君。そして、先輩の誘いを断り退路を断って「面白いこと」と向き合った駒場君。彼らの本気の「情熱」と「努力」と「覚悟」で掴んだ優勝だった。

敗者復活戦の出番は抽選で決まった

 今年の敗者復活戦は決勝経験コンビが過去最多5組、決勝進出メンバーよりも豪華なメンバーが出揃い、大混戦が予想された。こうなった場合、命運を左右するのはネタをする順番。正午、出場16組による「敗者復活戦出番順抽選会」が行われた。  くじを引くのは準決勝上位の漫才師から。すなわちこのとき、準決勝の順位がはっきりする。 最初に呼ばれたコンビが「次点」、つまり決勝進出まであと一歩届かなかった漫才師ということになる。  最初に呼ばれた漫才師は、やはり「アインシュタイン」だった。呼ばれた瞬間にうなだれる「アインシュタイン」。しかし、ここは切り替えるしかない。「アインシュタイン」が引いた順番は15番。トリ前という好位置を引き当てた。ここならば、観客の印象に残りやすい。決勝進出を射程圏内にとらえた。  その後、順位順に抽選を続く。決勝経験コンビの順番は、11位だった「和牛」が4番、13位の「ミキ」が7番、14位の「マヂカルラブリー」が6番、15位の「トム・ブラウン」が大トリとなる16番、そして、16位の「カミナリ」がなんとトップバッターを引いた。  最初と最後を決勝経験コンビが務めることとなった。当初、「アインシュタイン」有利と思えた出番順。しかし、後ろにはすべてをかっさらう破壊力がある「トム・ブラウン」が控えている。トップバッターが「カミナリ」ならば、早い段階で観客のテンションは立ち上がるだろう。そう考えたら「和牛」の順番も悪くない。確実に観客が温まる中盤の「ミキ」も十分チャンスがある。準決勝上位が決勝経験コンビがひしめく中で、「アインシュタイン」とともに12位と気を吐いたお笑い第7世代「東京ホテイソン」にも期待したい。

M-1の帝王「和牛」による完璧な漫才

 14時22分。雨が降りしきる中、決戦の火蓋は切られた。トップバッターに登場した「カミナリ」。大きなツッコミが出る前もボケを連ねて笑いを作り、後半をしっかり回収して終了。観客は完全にできあがった。    その後「囲碁将棋」「天竺鼠」と「M-1ラストイヤー」組が続き、ブレない彼ららしい渾身のネタをぶつけた。そして4番手、「和牛」が登場した。  俺は驚愕した。凄い。凄すぎる。「物語」も「人」も「伏線」も「所作」も完璧だ。面白凄すぎて一周回って逆に一切笑わなかった。彼らはこの「不動産屋と内見ネタ」を準決勝で披露していない。敗退してから約2週間で作ったのか? そんなわけはないだろう。ならば、彼らはこのネタを決勝に「温存」していたのか。  準決勝に「温存」する漫才師はよくいるが、決勝まで「温存」する漫才師なんて聞いたことがない。まさに「M-1の帝王」だからなせる技。完璧な漫才を披露し、「和牛」は舞台を後にした。

悪天候が敗者復活戦の流れを変える

「ラランド」「マヂカルラブリー」と続くが「和牛」の余韻が消えない。昨年、敗者復活戦から勝ち上がった「ミキ」が登場。出来はいい。丁々発止のやり取りで爆笑をとる。ただ、やはり「和牛」を超えたとまでは言い難い。  後半になるにつれて天候が悪化してきた。風が強く、舞台上で「寒い」と言い出す漫才師も現れ、少し観客のテンションにも影響が出ているように感じた。俺の見方ではまだ「和牛」を超えたと思われる漫才師は出ていない。  もうこれは「和牛」と同じようなことをしていたらダメだ。「和牛」とまったく違うようなことをするか、うまく観客を巻き込んで盛り上げられるかにかかっている。そして15番、準決勝で次点だった「アインシュタイン」が登場。今の2人の勢いならば観客を巻き込み、大きな笑いを作ることはできると信じた。しかし、「アインシュタイン」のネタは準決勝のネタではなかった。寒さの影響か、序盤から河井君の鼻水が止まらない。いつもの彼らではない。観客を巻き込むことができずにネタは終了する。   残すは大トリ。「和牛」とはまったく異なるタイプの「トム・ブラウン」。準々決勝、準決勝と一番の笑いを獲ってきた2人。彼ららしいバカバカしさならひっくり返すことも可能だ。  彼らは登場する。布川君の長髪が風邪になびいている。現場の状況は最悪だ。さらにネタ途中、みちお君が咳き込む。コンディションが最悪の中、ネタをやりきった。 通常ならば後半有利なはずだが、現場の状況からまさかの前半有利の状況となった。  大混戦が予想された敗者復活戦。終わってみれば、俺には「和牛」圧勝に見えた。しかし、まだわからない。
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松本人志の苦言に……
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