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レイプ被害を訴える女性は品行方正であれという虚妄/鈴木涼美

 ジャーナリストの伊藤詩織氏が、元TBS記者の山口敬之氏から望まない性行為を強要されたとして損害賠償を求めて起こした民事訴訟で、東京地裁は山口氏に対して330万円の支払いを命じた――
伊藤詩織

ジャーナリストの伊藤詩織氏

彼らの頭が悪いから/鈴木涼美

 ガリレオ・ガリレイがコペルニクスの地動説を支持したことで、宗教裁判で有罪となったのは人間の愚かさを示す事例としてあまりに有名だけど、ネット言論における、不都合な真実を受け入れずに弾圧しようとする態度は、地動説を異端としたカトリック教会のようだと時々思う。  ジャーナリスト志望だった女性が、米国のピアノバーで知り合った元キー局社員の性暴力を訴えた民事訴訟の第一審判決は、原告の女性側が勝訴した。裁判で問題にされたのは性行為における合意の有無であり、近年の傾向から考えても、記憶がないほど酩酊した、恋人でもない、しかも就職の世話を頼んできている立場の弱い女性と性行為に及んだことを思えば至極真っ当な判決のように思える。  本件が注目されたのは、被告男性が、首相や現政権内部の政治家と親しい関係で、不可解な「逮捕の中止」を経て刑事事件としては不起訴となっていたからだ。「首相の御用ジャーナリスト」の逮捕が何らかの理由で中止され、検察審査会でも不起訴相当の議決がなされたとなれば当然、政権と警察庁や検察の関係に疑惑が向けられる。こうした事情から、女性が顔を出して被害を訴えて約2年、両者の言い分を擁護する論者たちは、政権代理戦争とも呼べる熱っぽい論争を繰り広げてきた。  女性を擁護してきたのは積極的に政権批判をしてきた面々に加え、女性の性被害に敏感な論者たちで、男性を擁護していたのは当然、普段から極右やネトウヨ、安倍応援団と認識されている人・メディアとほぼ綺麗に一致する。そして両者は時にこれを政権問題に、時に女性の人権問題にすり替えて互いに批判を繰り返してきた。男性擁護派は女性側の落ち度を指摘するために、ホステスとして男性と出会った点や、性行為後に就職の頼みごとをしている点などを列挙し、男性から仕事を得られなかった腹いせに告訴したというストーリーを語る。  対する女性を応援する立場の論者らは、「アベ御用記者」の性暴力ともみ消しを強調するが、その際、彼女にしばしば真面目で自立した新時代の女性という印象を押し付け、ピアノバーはキャバ嬢と違う、といったトンデモ論まで飛び出る。ピアノバーは米国における日本人キャバクラの隠語だが、そんな擁護をされた女性はどんな気分だろうか。仮に彼女が、女を使って不相応な仕事やお金を得ようとしていたビッチなホステスであっても、性暴力裁判においては関係がないはずだが、女性の人権のために立ち上がるヒロインとしては都合が悪いのだろうか。  政権と検察に不健全な関係があるなら徹底的に追及してほしいが、政権とその支持者の性暴力は関係がない。素晴らしい政権だって関係者が性暴力事件を起こす場合はあるし、クソみたいな政治家でも性に関しては品行方正という場合もある。政権擁護のために都合の悪い性暴力は無視して女性のプライバシー暴露をする態度が人を傷つけるだけなのは言うまでもないが、政権批判のために彼女のイノセントさを強調する声もまた、彼女や彼女に共感する性暴力被害者を追い詰めている気がするのだ。 写真/時事通信社 ※週刊SPA!12月24日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『女がそんなことで喜ぶと思うなよ』(集英社)が発売中

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