更新日:2022年05月31日 10:32
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21人の犠牲者を出したテキサス銃乱射事件。銃規制はなぜ進まない?

5月24日、米テキサス州南部ユバルディの小学校で銃撃事件が発生。児童19人と教師2人が死亡した。犯人は地元の高校に通っていた18歳の男サルバドール・ラモスで、駆け付けた国境警備隊員らによって射殺。事件現場のロブ小学校には、花束や風船、ぬいぐるみなどが手向けられた。
鈴木涼美

写真はイメージです

セックス&ピストル

米テキサス州ユバルディの小学校で5月24日に起きた銃乱射事件は、学校内銃撃事件として最多規模の21人という犠牲者を出したこと、その多くが幼い子供であることから、深い悲しみをもたらした。 バイデン大統領は記者会見で、学校内だけでもここ10年で900件もの銃撃事件が報告されていることに触れ、銃規制強化を訴えた。ニューヨーク州のスーパーでの銃乱射事件で10人の命が奪われてからたった10日間。「もううんざりだ」という彼の言葉には緊迫感が籠る。 米紙によると’70年代以降の学校銃撃事件の死亡者数は200人以上。10年前に26人が犠牲になったサンディフック小学校での事件の後、銃規制の議論が盛り上がる瞬間はあった。 時の大統領オバマ氏が演説で涙を流したのは印象的だったが、共和党や全米ライフル協会(NRA)は頑なで、規制強化は全く進まなかった。 合衆国憲法修正第2条で保障される市民武装権は結果として昨年、年間2万人という記録的な数の銃の犠牲者(自殺を除く)を生んだ。銃器が原因の死亡は今や交通事故関連を抜いて若者の死因のトップとも報じられる。それでも銃保有賛成派の多くは、この権利を最も重要なスピリットに数える。 犯罪や裏社会との繫がりが深い/多くの国で禁止されている/ある種の人々には絶対に許せない/また別の種の人々には絶対に譲れない/議論は常に感情的かつ平行線/リベラルの中でも意見が分かれる/国にとって恥ずべき数字を叩き出すが誇りの源泉にもなり得る/人を傷つけるが人を守ることもある……。 思えば銃による昨年の死亡者数は5人という日本でも最近、この種の議論が見られた。成人年齢引き下げに端を発するAV関連の新法をめぐり、一部では性行為を伴うAV禁止に向けた動きもあり、規制派と反対派は感情的かつ平行線の議論を続ける。 年間のAV制作数は2万とも3万ともいわれる。巨大な市場規模を持つ日本のセックス産業は、喜ばしくはないが仕方がないものとして日常的には議論を回避しているが、タテマエとホンネの乖離を指摘されるとなかなか苦しい。 ただし社会の周縁であるが故の誇りや愛着も確実にあり、居場所を奪われないために闘う者だって必死だ。そもそも被害者なき犯罪と呼ばれる売春は、直感的には多くの人が良くないと共感するにもかかわらず、いざ本気で否定するのは難しい。現実的には年齢と意志の有無を焦点化するしかないが、年齢と違って人の選択肢などどこまでも社会的なものでしかありえない。 どちらの論理もそれなりの正義があり、それなりの破綻がある。 異なる信条がぶつかり合うのは社会には重要なことで、時には何かを犠牲にしても守るべき正義があるとも思う。ただし自分の主張が誰の居場所や誇りを奪うか無自覚なまま進む議論は、双方に傷を残す。 銃によるテロが許し難き犯罪でありながら表現(ただし最も稚拙な)であるという事実と似て、カメラの前でのセックスも一部の人には許し難きものでありながら目を向けるべき表現でもある。それは稚拙で、傷や後悔を生み、時に不快かもしれないが、少なくとも銃犯罪よりは幅広い意見を許容すると個人的には思う。 当然、それを手に取る者に厳重な倫理が求められるのは銃と同じだ。差別表現に使ってはいけない。無差別に人を巻き込んではいけない。自問自答を繰り返さなくてはいけない。暴発や誤射も危険。 ※週刊SPA!5月31日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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