参院選の候補・公約が出揃う。愚かな世界を嘆くよりマシな未来を志向しよう
7月10日の参議院議員選挙に向けて各党の公約、候補者が出揃い始めた。自民党は憲法改正、防衛費増額などを掲げ、6月1日には河野太郎広報部長が参院選に向けた自民党の新たな政治活動用ポスターを発表。立憲民主党は物価高対策、教育無償化、安全保障を「生活安全保障の3本の柱」と強調するが、野党の足並みが揃わないなか、情勢調査では既に自民党が改選過半数を超えて圧勝との見方が強い
下のお口と上のお口では言うことが違うし、右目と左目で見える世界が違う。5年ほど前、人生の非処女期間が処女期間より長くなったことに眩暈がしたが、今年の初めに、夜職だった時間より昼職の時間が長くなったことにも気づいた。それでも私の身体の幾分かはバージンな水でできていて、スレた心だけでできているわけじゃないと信じたいし、約半分は現代人で約半分は古代から続く売春婦であるとも思う。
右目を閉じれば社会にいくらか改善できる点が見つかるし、左目を閉じればどうせ変わらない世界で愚かに生きればいいと開き直る。統計すら書き換えてしまうような国の中枢に絶望しながら、自己負担が軽減された不妊治療で生まれた命(他人のだけど)に希望を抱く。
7月に予定される参院選に向け、各党の公約や立候補予定者が出揃いつつある。核シェアリングの議論を開始したがる党がある一方、物価高対策など生活の安全保障を強調する姿もある。初めて国政に挑む候補が多様な社会を目指すと志し、与党は政治の安定こそ重要だと説く。
上のお口は公約を見比べて護憲や貧困層支援を並べ立てるものの、下のお口は権力は志など一瞬で腐らせると笑って候補者を不埒な目で眺める。
報道各社の調査で岸田内閣の支持率は堅調、参院選での投票先も与党が他を大きく引き離し、一部では半数を超える。長きにわたる自民党政権下で、報道されてきた多くの疑惑は未解決のまま、統計不正だけでなく安保法制の強行採決、過大な予備費、入管での死亡事故、ブラだかマスクだかわからない布の配布と廃棄、五輪の強行、などいろいろあった。
半面、ネックと言われていた執行が終わっても死刑廃止は進まず、同性婚も夫婦別姓も叶わず、シングル親は困窮し、少子高齢化はいよいよ深刻で、息抜きに大麻も吸えないままだ。巨悪が暴かれようが巨根がスキャンダルを呼ぼうが、利権が全てを動かすような世の中を前に、下のお口がだらしなくもなる。
すべてが政権与党のせいではない。震災の痛み癒えぬままに疫病禍の日常がやってきた。香港ではかつてあった自由さえ奪われ、ウクライナの国土は踏み躙られた。社会を映すべくメガホンを握るはずの映画監督は乳や性器を握りつくし、自分の関わる作品の捏造に沈黙して縁のない大学で饒舌に喋り、ジャーナリズムは怠慢で、アニメの主人公は異世界に転生し、人気漫画は戦前を描き、ファッション誌はSDGsの夢の中、AVは相変わらず顔射が好きで、人の心を癒やすのは50年以上前に宇宙からきた銀色巨人くらいだった。
長く権力を握り続け、ご病気とともに去った元トップが軍備増強を訴える姿を見れば、大量に余ったマスクではない、韓国で人気の機能性抜群のものを付けている。
毎日片目ずつ瞬かせて気分はころころ変わる。それでも、シニシズムが予想するよりはほんの少しだけ光のほうに物事がズレていくこともある。
そのような変化が蓄積し、同性愛者が投獄されず、魔女が狩られないどころか『美ST』の表紙を飾り、農村の娘が遊郭に売られずマイルドにヤンキーになる社会が今ある。トーキー映画が生まれてたかだか100年、古い映画の中で当たり前に語られる価値観は今ではジョークでも笑えない。歴史を学び、下のお口を説き伏せるべき時かもしれない。
――連載はこれにて終了しますが選挙に出るわけではありません。
※週刊SPA!6月7日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中
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