更新日:2023年05月18日 16:10
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完全自腹だった自衛隊員のPKO保険に「助成」が。しかし気になる点も…

希望する保険に実質自己負担ゼロで加入できるように

PKO保険で給付される保険金額と保険料

PKO保険で給付される保険金額と保険料

 PKO保険は補償内容により10段階に区分されており、最低補償部分は「障害死亡・後遺障害1000万円、疾病死亡1000万円、治療費用500万円、救援者費用500万円」です。それにかかる月額保険料は3210円です。上に掲げた平成28年度の防衛共済組合の出すPKO保険の案内資料を見ると、この3210円も含めすべての保険料は隊員の給料から源泉控除されていました。  しかし、下の平成30年度の同じ資料では、保険料は同じく給料から源泉控除されますが、Jランクを除くと記載されています。この最低保険料金での保障枠については、個人の給料から源泉控除されず「防衛共済保険」から補助が出て、派遣する隊員が直接自腹で全額保険料金を支払わなくても最低枠の保障は受けられるように改正されたのです。
備考欄

備考欄には新たに「共済組合が保険料を助成します」との一文が書き加えられた

 さらに、昨年12月27日からは、防衛省共済組合が助成する保険の区分を引き上げ(月額保険料(6800円))の枠まで広げました。結果、「障害死亡・後遺障害3000万円、疾病死亡3000万円、治療費用700万円、救援者費用500万円」までが助成対象となったのです。  この助成引き上げにより、これまでの派遣隊員の加入実績からすれば、ほとんどの隊員は希望する保険に実質自己負担ゼロで加入できるようになりました。That’s great! すごいです。PKOなどで海外に派遣される隊員本人が保険料を自腹負担することがなくなったことは画期的です。この改善のためにご尽力いただいた皆様に感謝します。よかったねっ!  しかし、ただ1点気になることがあります。そもそも防衛共済は「自衛官から集める掛け金」で運用されているものです。共済年金は事業主(国)の負担金等も入っていますが、自衛隊の給料から天引きされている掛け金が原資です。つまり、この改正で実質的に隊員個人の自腹負担はなくなりましたが、結局は広く薄く全自衛官から徴収されている掛け金で保険料を支払うかたちになっています。  対象の隊員が増えて保険料を払う隊員の数が減れば、この制度設計では破綻してしまいます。隊員から集めた掛け金だけで足らなくなったときには、国が保険料金を肩代わりする制度がほしいです。さらに言うなら、隊員の相互扶助となる共済で保険料を支払うのではなく、やはり国が全額PKO保険料金を持つべきではないかなぁと思います。  ただ、この第一歩の改革には大きな拍手を贈りたいと思います。  憲法改正や法律の問題もそうですが、なかなか一足飛びには進まないにしても、できるところから少しずつでも確実に変えていきましょうよ。
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

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