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スナックで働く人間の悲しい性。オフの日に訪れたバーで…

結局、ジイサンの相手をするわたし

 そうこうしているうちに、若い四人組の男性客が入ってきて、運命を悟った。  四人、四人ね。今の配置だと四人全員並んでカウンターに座れませんね。単純にど真ん中のジイサンを端っこに移動すれば済むんだけどまぁ面倒だよね。わかるわかる。 「ユキナちゃんごめん、こっちの席に移動してもらっていい?」  指し示されたのはジイサンの隣の席。知ってた。 「はーい!いいっすよ~!」  気前よく返事をしてしまう自分が嫌だ。おまけに自分でグラスと灰皿を持って、さくさくとジイサンの隣に移動してしまう。もうオフじゃなくなった。 「お姉ちゃん、あんたみたいに若い人にはわかんないかもしれないけろれ、俺らってまだ恋がしたいんらよ。あんたみたいな姉ちゃんは、俺とは付き合えねぇだろ?」  隣に座った途端に耄碌トークがこちらに向かってくる。 「え~?恋はいくつになってもできるでしょ~?っていうか、もしかして気になってる子がいるの~?」  完全仕事モードで返すと、ジイサンは嬉々として飲み屋の姉ちゃんの話やら、過去の女遊びの話やら、頼りなくなった下半身の話をし始めた。半分ぐらい何を言ってるのかわからないが、わたしはなるべくニコニコしたまま、適当に相槌を打ったり過剰に笑ったりしていた。  飲み屋の人間って悲しい生き物だ。外の店へ行ってもつい仕事のようなことをしてしまう。面倒くさいジイサンなんて放っておいて帰ったって良いのに、話をしないと申し訳ないような気持ちになる。わたしだってあのジイサンみたいに、100%客みたいな感じでバーで我儘に酔ってみたい。チェーンの居酒屋とかならともかく、コミュニティの出来上がっている飲み屋ではもうそんなことはできなくなってしまった。  うちのスナックのお客にも、そんな若者がいる。  コマちゃんと言って、歳の頃は三十になったばかりだが、同じくスナック勤務をしているため、飲みに来るとほとんど店の人のようなことをしてしまう。 「割りもんだけくれれば、自分でやるからいいよ」  お客がいっぺんに入ってきてわたわたしている時など、そう言って彼は自分で酒を作る。  おかわりのグラスを差し出す時も、「それ全部終わってからでいいよ」なんて気を遣うし、隣に座った新規客にも積極的に話掛けるし、苦手な曲の無茶ぶりリクエストにも答えるし、何より酔って乱れることもしなければ、極端に長居するようなこともしない。  ぶっちゃけ出来すぎじゃないの? って思うけど、店の人だけに、こちら側の状況などがわかってしまうのである。彼だって本当はきっと、バカみたいに酔っぱらってはしゃいで、迷惑を掛けるような飲み方をしたい日だってあるはずだ。気に食わない奴には喧嘩売りたい日だってあるはずだ。しかしそれができない店の人の性。わたしたちも、コマちゃんがいると安心して頼ってしまうところがあるというのが正直な話だ。
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自由奔放な「100%客」
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