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若者よ、マイクを握れ!スナックでのカラオケ拒否はあり?

 キャバクラのように若い女のコを揃えたスナックがあれば、小料理屋のようなスナックもある。どこまでも不明瞭な「スナック」という業態だが、あえて他の水商売との線引きをするならば「カラオケの有無」につきるだろう。  どんな曲が歌われているかはデンモクの「りれき」を見れば一目瞭然。演歌、昭和歌謡からアニソン、アイドルソングまで、幅広い楽曲が毎晩、呼気に含んだ酒とともに揮発されていることがわかる。スナックでの一期一会を彩るカラオケコミュニケーションだが、歌うことを頑なに拒否する新人類が登場して店内は一触即発。さて…どうなる?

第十三夜 カラオケ好きですか?

 パワハラ、セクハラ、モラハラ、アルハラ。  今や世の中ハラスメントまみれで何をしたら正解なのか、よもや何もするべきではないのかわからず非常に生きにくい時代だけど、僕が初めて君を見た白い扉の小さなスナック~♪ は、客も店員もあらゆるハラスメントの蔓延る無法地帯で今宵も居心地が良い。もはやハラスメントなどという概念が存在しない。  中島はわたしの尻を撫でまわし、わたしは中島の薄い頭を引っぱたく。「菌がうつるから触んな!」「女のくせに偉そうに!」。  マスターは熟女に乳を見せるよう促し、熟女は隣の初心なカップルに突撃する。「おっぱい出せおっぱい!」「アンタたち今夜セックスすんの~?」。  ゴミちゃんはわたしに鏡月をイッキさせ、わたしはゴミちゃんの嫌いなトマトを無理やり食わせる。要は受け取る側の問題で、誰も彼もがたいして気にしていなくて、酒がそうさせるのかもしれないけど、そろいも揃って心が屈強だ。単に馬鹿とも言える。いつか時代の変化についていけなくなって、我々みんなマンモスみたいに絶滅するのかもしれない。そういう文化ならそれでいい。滅びの美学って言いますからね。それでいいんだけれども、時々新人類がやってくる。  宝井くんは月に一回くらいふらりとやってくる若者だ。  ふらり…といっても来店する前にたいていLINEが来るし、若者といっても三十ちょいなのだが。彼はカラオケというものをたぶんこの世で一番憎んでいて、悪意なき隣のおっちゃんからマイクを向けられたりすると、まるで拳銃でも突き付けられたかのように表情を失う。  うちみたいなカラオケスナックに飲みに来ていても、カラオケが苦手で、できれば歌いたくないっていうお客さんはもちろんいるし、かくいうわたしも昔は結構苦手で、初めて夜の店(キャバクラ)で働いた時なんて、こんなによくわからんオッサンがいっぱい居る中で恥ずかしくて歌えねーよ放課後の友達とカラオケぐらいが限界だわ、と思っていたのだが、それは意外とすんなり酒が解決してくれた。  酔っていれば大概恥ずかしい歌もうたえるし、恥ずかしい合いの手もなんてことない。まぁあとはもちろん仕事だからというのが大きい。当時週5オープンラストで来ていた指名客のリクエストで毎日毎日『雪の華』を憎しみ、じゃなくて真心込めて歌っていたのも今となっては懐かしく、そして今はそんな曲、酒やけで一ミリも歌えない。  でもキャバクラと違って、スナックのカラオケってちょっと面白いなって思う今日この頃だったりもするわけです。なぜならば、スナックはお客同士の距離が近い故に、カラオケの選曲も皆お互いに影響を受け合うから。例えば、カラオケ好きな常連さんが「今日はムード歌謡でいこうかなぁ~」なんて言うと、普段サザンやミスチルな隣のお客も、「おっ、じゃあ俺も」なんていうノリになって、ムード歌謡祭りになったりする。その逆もあって、サザン祭りになったり、チャゲアス祭りになったり、洋楽祭りになったり、はたまた「今日は雨だから雨の付く曲」縛りみたいな流れが出来上がったりもする。  そういう時、あまりカラオケを歌わないお客さんはというと、まぁ普通に会話を楽しんだりしつつ、歌っている人に好きな曲をリクエストしてみたり、酔いが回ってきたところで「わたしも久しぶりに歌ってみようかな」なんてマイクに手を伸ばしたりし始めることが多い。カラオケスナックならではの展開だと思う。
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それって、カラハラ?
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