スポーツ

金を掴む。オリンピック新種目・スポーツクライミング野中生萌の「開き直り力」

強さの源は「開き直り力」

 強さの源は、その「開き直り力」にもあるかもしれない。加えて、やるべきことをやっている手応えか。19年シーズンは両肩のケガからの回復に努めたが、5月のジャパンカップ複合で優勝するなど、要所で結果を出してきた。肩のリハビリはかなりハードなもので、本人いわく「リハビリというより、めちゃめちゃキツいトレーニング」。最近では周りから「もう治ったの?」と頻繁に聞かれるまでになった。  野中は常々、「強いクライマーになりたい」と公言してきた。2年近く前にも話を聞いたが、その時は「世界には競技としてのスポーツクライミングの大会に出てこない、外岩専門のクライマーもいるから、一生をかけて私はどこから見ても強いクライマーになりたい」と明かしていた。 「一時期の私は、クライミングが、競技としてのスポーツクライミングだけ、その成績だけ注目されているのは、嫌だなと思っていたんです。どれだけ内容が悪くても1位なら評価されるし、逆にすごくいい登りをしても1位じゃないと評価されない。そこじゃないっていう思いがあって、もっと単純にかっこいいとか、すごくいい登りをするクライマーとして印象づけたいと取り組んでいました」  その思いは、オリンピックを目前に大きく変化したという。結果を出すべく、競技の成績に比重を置くようになったのだ。 「今もいい登りをしたい気持ちは変わらないんですが、『強いクライマー』って何かって自問したら、一番わかりやすいのは、大会で成績を残すことだった。一番です、強いですっていう証拠を残せる。実際、結果を出しつづけるのは本当に簡単なことじゃない。これまでの私はそれを避ける口実にする部分があったのかもしれません」と自省する。  そんな野中にとって、リフレッシュもできて、原点に還れるのが、外岩でのクライミングだ。自身が発案したRed Bull Asuraは、毎秋に三重県の熊野市で開催される外岩のボルダリング大会。全国のクライマーが予選を勝ち抜いて集結し、地元のクライマーやボランティアが岩を掃除して準備するなど、地域ぐるみで盛り上がる。  外岩のクライミングとスポーツクライミングは、まったく別物だという。自然の岩が相手なので、突然に岩が剥がれることも。昨秋のRed Bull Asuraでも、野中は掴んだ岩が崩れて転落。大事には至らなかったが、そもそも大事に至らないよう、岩が崩れる可能性も考慮しながら、攻略に挑むのだという。 「石灰岩とか花崗岩とか砂岩とか、感触がまるで違うのでわかりますよ」となんでもない様子で野中は言う。「外岩のクライミングは慎重に動くため、疲れもほとんどない」と。いわく、スポーツクライミングでは、ホールドはしっかりと固定されている。だから、飛びついたり、強く力をかけたりとダイナミックなムーブができるのだが、外岩はいつどこが崩れるかわからない。30分以上、同じ岩の課題に釘付けになっている場面もみられた。 「なかなか解けない時も楽しい。ぜんぶ含めてボルダリングの醍醐味なんですよね。うまく登れなくて、痛い目に遭うこともあるけど、痛くても登れるなら登りたいんです」と語る野中の手のひらは、皮がめくれていた。「指じゃなくて、手のひらなら大丈夫です」と屈託なく笑う。  よくよく見ると、手もとても大きい。これも強さの秘訣ですねと言うと、野中は照れたように「いや、ほんと男みたいにゴツゴツなんですよね。長年、毎日トレーニングしてるから、仕方ないんでしょうけど、一般の女性の手って、めっちゃ柔らかい。ちょっと……私のこれは……って悩んだこともあります」と茶目っ気たっぷりに自虐する。
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