更新日:2023年05月23日 16:52
スポーツ

金を掴む。オリンピック新種目・スポーツクライミング野中生萌の「開き直り力」

おしゃれも楽しむ普通の女の子

 そう言いながらも、野中は普通の若い女の子らしく、おしゃれも楽しんでいる。スカートは履かないけれど、ショートパンツや可愛いサンダルも大好きだ。最近は少し落ち着いて黒髪でいるが、以前は髪の色も大会ごとに変えていた。練習でも大会でも、普段から自分でしっかりめのメイクをする。だから、撮影などでは「アスリートは自然体」というイメージからか、プロの手によって「メイクも薄くされがち」と不満げに笑う。「ファッションにこだわりは特にないけれど、最近は安いアイテムも高く見せることに成功したら、心の中でガッツポーズします」と愛らしい。  友だちとパンケーキを食べまくっていた時期もあったという。ただし、栄養士の指導を仰ぐようになってからは、きっぱり諦めた。アレルギーと呼ぶほど強くはないものの、詳細な血液検査の結果、小麦粉と乳製品が「あまり良くない」ことがわかったからだ。自分のパフォーマンスに影響があるとされるものは、避けるようになった。 「遠征も多いですし、そこまで厳しくはしてないですよ。やり過ぎると逆にストレスにもなるので。ちゃんと知識があれば、海外遠征であまり選べない時でも、例えばビュッフェなんかで、自分に合うものを選べるので」  自身のことも、ボルダリングのオブザベーション(課題を観察しどう登るかを考える時間)のように俯瞰できているのだろう。何がいいか悪いかも自分で決めるという意思の強さ。インタビュー後の雑談では、こんな本音をこぼしていた。 「応援って、本当に力になるんですけど、日本でも海外でもみんなすごい『行ける行けるー!』『カモーン!』って言ってくるんですよ。いや、行けるかどうか決めるのは私だから! って内心で突っ込んでます(笑)」  小学生で初めてリードの大会に出場した時は、アイソレーション(他の選手のトライを見られないよう隔離された場所)で一人うずくまって、手のひらに「人」を描いては飲み込みつづけ、極度に緊張したまま無我夢中でトップまで登りつめたという。今も大会で緊張はするというが、熱狂の歓声も自身の背中を押す力に変えたり、時にツッコミを入れたりするほどになった。「結果を出すことは本当に難しい。今はそれに挑戦するだけ」という野中の座右の銘は、「今に見てろと笑ってやれ」。東京オリンピックで、最高に弾ける笑顔が見たい。 ●プロフィール のなかみほう ’97年5月21日、東京都生まれ。9歳でクライミングを始めると、16歳で日本代表入りし、ワールドカップに出場。’16年の18歳でボルダリングのW杯インド大会とドイツ大会で優勝。同年に年間ランキング2位、’18年は1位。162cm、52kg 取材・文/松山ようこ 撮影/渡辺秀之
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