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刑務所は処罰の場か更生の場か、受刑者の生い立ちに思うこと/鴻上尚史

再入所率が激減した更生プログラム

 日本の刑務所は、基本的に処罰の場であるという考え方です。そこでは、規律と管理が徹底されています。  指先まで真っ直ぐ伸ばして直立不動で立つ。呼ばれたら大きな声で返事をする。機械仕掛けのような鋭角的な礼をする。軍隊的規律と言っていいと思います。  TCは1960年代以降、欧米各地に広がりました。処罰ではなく、「更生」を目的とする考え方です。処罰しても再犯をとめることができない、という研究の結果です。  さまざまなプログラムの中で、犯罪者と被害者のロールプレイングもありました。  27歳の健太郎は、強盗傷人、住居侵入を犯します。親戚の家に押し入ってケガを負わせたのですが、それにより、婚約者もお腹にいた赤ちゃんも、友人も仕事仲間もすべて失いました。  健太郎の事情を知った他の受刑者は、被害者や婚約者の立場で健太郎に語りかけます。  被害者役の人は憤りや怒り、疑問を健太郎にぶつけます。懸命に答えていくうちに、健太郎の目から涙が溢れ出ます。被害者のことを真剣に考えた瞬間でした。  まさに演劇の手法です。  このTCを受けた人達は、再入所率が他の受刑者に比べて半分以下というデータがあります。  本当の意味で更生に役立っているのです。ただし、日本全国で4万人いる受刑者のうち、TCを受けられるのはわずか40人という数字です。  この映画は、取材許可が下りるまでに6年、撮影2年、公開までにさらに約2年かかりました。  作られる意味のある映画だと思います。個人が主催する自主上映会もできるという案内がありました。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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