刑務所は処罰の場か更生の場か、受刑者の生い立ちに思うこと/鴻上尚史
刑務所は処罰の場か更生の場か、受刑者の生い立ちに思うこと
『プリズン・サークル』という映画を見ました。「島根あさひ社会復帰促進センター」という新しい刑務所で撮られたドキュメントです。
そこでは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムが日本で唯一導入されています。
登場人物というか映されている人達は、もちろん、実在の受刑者ですから、顔はボカされていて分かりません。
ですが、感情の震えはくっきりと伝わります。だんだんと顔がボカされていることが気にならないというか、忘れてしまうぐらい、感情が揺さぶられます。
映画がフォーカスを当てたのは、4人。
「なぜ、今、自分はここにいるのか」「いかにして罪を償うのか」「自分はどうしたらよかったのか」それらの疑問が、対話や問いかけなどさまざまなテクニックによって掘り下げられていきます。
4人とも、20代なのですが、まず、その育てられ方に胸が潰れます。
幼い頃に経験した貧困、いじめ、親からの虐待、周りからの差別。
詐欺と詐欺未遂を犯した22歳の拓也は、施設に預けられていて幼少期の記憶があまりないと言います。
唯一覚えているのは、ほんの短い間、母親と暮らしていた時に使っていたシャンプーの匂いだけ。
強盗致傷、窃盗などを犯した24歳の真人は親からの虐待と周りからのいじめを受け続けていました。
他の二人も、安全で安心できる子供時代とは無縁に育ちました。
初めは、誰もが自分のそういう過去を語りません。本当につらい記憶は、胸の奥の奥に封じ込めてなかったことにするのです。
それが、TCのプログラムの中でゆっくりと語られ始めます。
「近年のトラウマ研究が明らかにしたのは、過酷な経験は安全な場所がなければ思い出して語ることはできないということだ」と映画のパンフレットの中で臨床心理士の信田さよ子さんが語っています。
4人の話を聞きながら、こんな育ち方をしたら、犯罪を犯してもしょうがないんじゃないかとさえ思います。こんなひどい扱いを受けてきて、人間に対して優しくなんかなれるわけがないとも思います。
彼らは泣きながら、あるいは吐き出すように、苦しみながら語ります。
一人の話を聞いて、それに刺激を受けて、閉ざしていた扉が開くということもありました。
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