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<純烈物語>194cmの“進撃のマネジャー”、男・四十にして「純烈とやらなあかん」と転職した理由<第42回>

純烈の第一印象は「これ……こんなに歌ヘタでいいんか?」

 三越劇場におけるライブの模様を見た山本は「これ……こんなに歌ヘタで、歌手っていうていいんか?」と思った。音楽に関し門外漢の素人が見ても、当時の純烈はそういうレベルだった。  それでも山本と純烈の二人三脚は始まったものの、初対面を含む初期の頃の記憶がすっぽりと抜けており、思い出そうとしても何も浮かんでこないのだという。右も左もわからぬ中でテンパっていたため、メモリーされていないらしい。  その頃に名刺交換をした相手と久々に顔を合わせ「ご無沙汰しております」と言われても「誰だっけ?」と憶えていないケースが多々あった。グループのスケジュール管理や渉外、営業だけでも一杯いっぱいなのに「キー」だの「オクターブ」だのと専門用語が飛び交い、頭の中がグチャグチャにこんがらがり、どんどんストレスがたまっていった。  5枚目のシングル『星降る夜のサンバ』が年明けの1月にリリースされたばかりで、プロモーションビデオの撮影現場にいったことは憶えているのだが、本当はその前に面合わせし挨拶を交わしているはずだった。つまり、純烈のマネジャーになってからのしばらくはまだメンバーとの距離があった。  そうした中で古いエピソードとして思い出せるのは、スナックを営業で回った時のこと。まだまだ知名度は高くなかったが、店の協力もあり今と比べれば少ないながらも40人ほどのスペースが満杯となった。 「最初に挨拶だけしてそんなに会話もしていない段階だったので、僕は純烈のノリがわかっていなかったんです。それで『お客様からお金をもらってステージへ立っているのに、こんなノリでやったらあかんとちゃうのか?』って、酒井に言った記憶があります。要はチャラチャラしていると受け取ったんですわ。もっとしゃんとせなあかんやろと。  僕が経験してきた中で当たり前のことを言っているつもりなんだけど、芸能界、純烈の世界観では当たり前のことではなかった。それは一緒に過ごしていって徐々にわかってくることで、まだ浅かったですから思いっきりぶつけたんです。酒井は怒り出すことなく黙って聞いていましたけど、心の中では『このおっさん、何を言うてんねん?』って思っていたかもわからんですね」  飲食店の店長を経験している人間からすれば、今では定着している純烈のノリがチャラついたものとして映っても無理はない。ましてや現場で一緒になる歌い手は、誰もが真逆のようにキッチリしている。  純烈のマネジャーでありながら、しばらくはメンバーとの距離感は縮まらぬまま。自身も何をどうやったら役割を全うできるのか、試行錯誤する日々だった。健康センターやショッピングモールにおけるキャンペーンも、それほど多くの観客は集まらない。山本が見た中でもっとも少なかったのは、20~30人という光景だった。  それでも次第にイベンターが力を入れ、現場を形にしてくれるようになる。有名どころのディナーショーの前座にブッキングされたり、ジョイントコンサートの中に入れられたりすれば、純烈そのものの人気とは別に満員のオーディエンスの前で歌える。それを続けることで、少しずつ認知されていった。  マネジャーに就任して1年も経つと、山本の中にいくつかの気づきが芽生えてくる。客席からステージを眺めるうちに、そこで繰り広げられるトークの面白さへ吸い寄せられるようになっていた。
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「とりあえず3年辛抱してくれ! 俺はあいつらに賭けてみたいんや」
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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