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『愛の不時着』が自粛期間中の辛い気持ちを救ってくれた/鴻上尚史

中止になり無念だった作品。自粛期間中の辛い気持ちを救ってくれた作品

ドン・キホーテのピアス 8月の下旬から予定していた舞台『スクールオブロック』がコロナの影響で中止になりました。  予定では6月から稽古を開始して、8月、9月、そして10月の頭までの長い公演の予定でした。  僕は上演台本と日本版演出の担当でした。  中止の理由は、映画版『スクールオブロック』をご覧になっている人なら分かるでしょうが、小学生が12人も集団で出演するミュージカルだからです。  稽古や本番の中で、コロナに感染するという危険を考えた時に、子供達は守らなければいけないとプロデューサーサイドは考えたわけです。当然のことだと思います。大人は、まだ「自己責任」なんて言えるかもしれませんが、子供達を巻き添えにはできません。子供達は本当に無念だったと思います。去年、何十倍という激烈なオーディションを勝ち抜いて、役を獲得したのです。自宅で楽器や歌の個人練習をしてとても上達しました。  大人は、「いつか延期してもやりたい」と思いますが、子供は成長します。『スクールオブロック』の小学生役ができるのは、人生のほんの一時期なのです。  これは、中学三年生、高校三年生のインターハイとか甲子園とかコンクールとかと同じ事情です。  人生に一度しかないチャンスを失ってしまうのです。胸が張り裂けるような痛みと悔しさだと思います。  本当に可哀相です。けれど、しかたありません。  これで、僕は、今年、芝居が中止になるのは2本目です。  一本目は『虚構の劇団』の『日本人のへそ』という作品でした。5月、6月公演が中止になりました。  いきなり時間ができてしまって戸惑い、5月中はずっと公園に行ってベンチで本を読んでいました。  あんまり頭に入りませんでしたが、家の中にいてもやりきれなく、近くに密を避けられる大きな公園があったのが不幸中の幸いでした。
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読書と書き仕事と寝る前に見る『愛の不時着』
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