更新日:2020年09月03日 18:33
ライフ

マスクに対する抵抗感が少ない日本人、その意外な理由とは/鴻上尚史

マスクをすることで、社会をシャットダウン

 僕が思った理由のひとつは、「日本の人々は『世間』に生きているからじゃないか」ということです。  エレベーターに乗ると、日本以外のほとんどの国では、お互いが会釈したり微笑んだり会話したりします。  それは、礼儀正しいのではなく、狭い空間にいる相手がまともな人間か、危険がないか確かめたいからです。  日本人はあなたも知っているように、お互いに無視して、エレベーターの動く数字をじっと見ています。  相手は「社会」に生きている人で、自分とは関係ないから、挨拶する必要を感じないのです。日本人にとって大切なのは、同じ「世間」に生きる人ですからね。  ただ、日本人が無視する「社会」は、欧米のようにいきなり襲ってくるかもしれない「社会」ではないと日本人は思っています。だから、スパッと無視できるのです。  そして、無視できるからこそ、簡単にマスクをつけられるんじゃないかと思ったのです。 「コロナが終息した後、マスクは定着するだろうか?」と聞くと、アメリカ人とブラジル人が首を振りながら、「平穏な時期にマスクをしてスーパーに入ると、強盗に来たのかと思われる」と言っていました。アメリカ人女性は顔を曇らせながら「特に黒人はそう思われる」と。  マスクをすると表情がよく分からないから不安なのです。  日本人は、表情がよく分からなくても「社会」に関心がないから平気なのです。  逆に言うと、「社会」に生きる知らない人とのコミュニケイションが日本人は苦手なので、マスクをすることでシャットダウンできるという利点を感じているのではないか、ということです。  マスクが、対人関係のバリアになって、安心感を得ている日本人はいるでしょう。  これが、日本人がマスクをつけやすく、海外ではマスクが受け入れられにくかった理由じゃないかと思いました。  実に刺激的な番組になりました。オンエアは7月19日(日)18時から。再放送もあります。よろしければ。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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