更新日:2020年08月23日 11:53
ライフ

工業都市・鹿島のラブホは火力発電所の傍らで物憂げに佇む/古谷経衡

K&K外観

ホテル K&K鹿島の全景。洋館風の作りになっている

第20回/工業地帯にあるラブホ

 2020年4月7日、新型コロナウイルス拡大に際して緊急事態宣言が発令されたとき、私は茨城県鹿嶋にいた。鹿嶋方面に小庵を持っている私は当時ここに数日逗留し、造園作業等に従事していたからであった。この日、民放ではさも重大事件が発生したかのように特番が組まれていたが茨城県は緊急事態宣言の対象外(その後拡大)であり、私は何ら意に介さなかった。それよりも強力な竹類の地下茎によって掘削が難しく、遅々として進まない造園の難工事に手を焼いていたのである。  さてこの間、私が宿として世話になったのは、同市にあるラブホテルK&K鹿島だ。鹿嶋は市内臨海部に広大な鹿島臨海工業地帯を持つ。ここは茨城県下最大の工業地帯であるのみならず、日本屈指の臨海工業地帯であり、我が国の高度永長を質量ともに支えた。日本製鐵を筆頭に、重厚長大産業が次々と進出。立地自治体である鹿嶋市の人口は20年現在約6万7千人と、人口減少にあえぐ関東近郊の地方都市としては珍しく順調に増加傾向を続けている。  ただし、鹿嶋に隣接する鉾田(ほこた)、潮来(いたこ)などは人口減少傾向である。よって市内には、この工業地帯の勤務者に向けた繁華街・盛り場が形成され、短期滞在者向けの宿泊施設も多い。一方ラブホテルはどうかというと、むろん東京における歌舞伎町や円山町(渋谷)、鶯谷程の集積は見られないが、自動車来館を前提としたラブホが市内各所に点在している状況である。  鹿島、鉾田、行方(なめがた)、潮来、神栖(かみす)等の各市をまとめて「鹿行(ろっこう)地域」というが、この地域は茨城県の県庁である水戸よりもむしろラブホ需要は盛んであり、隠れたラブホ・ホットスポットといっても過言ではない。  私が選んだホテルK&K鹿島は日鉄鹿嶋の巨大な敷地に侵入する門のすぐ目の前にあった。ここには同社の火力発電所があり、周辺には高圧線や鉄塔が物々しく張り巡らされている。門(ゲート)には警備所があり、車止めと遮断機が設置され、さながら軍事基地の様相を呈している。  製鉄、火力発電などの重厚長大産業は斜陽と呼ばれて久しいが、さすがにいまだ日本経済の屋台骨の一つを形成しているだけあって、周辺自治体への膨大な雇用と実需を提供しているのだ。まさに工業都市・鹿嶋の面目躍如といったところか。
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『うる星やつら』友引高校然とした外観
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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