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コロナ禍の歌舞伎町ラブホ街、国からの経済的差別にどう抗った?/古谷経衡

 緊急事態宣言が解除され、ラブホテルが立地する夜の街やインターチェンジ周辺にもようやくだが徐々に人が戻りつつある。緊急事態宣言下、ラブホテルは他業と同様苦境に立たされた。私は宣言下、都内数か所のラブホ集積地(ラブホ街)を定点観測した。コロナ禍でラブホテル街はどのようであったのか。新宿歌舞伎町と鶯谷という都下有数のラブホ街の実態を総括していきたい。

金曜日の夜、A立地でも空室が目立つ歌舞伎町のラブホ―緊急事態宣言下の某日

第18回/緊急事態宣言下のラブホ 前編

 その前に、私は憚りながらラブホをこよなく愛し、独りラブホにこの数十年、ゆうに五百万円近くを費やしてきたラブホ評論家として、ラブホテルに対する国家の差別を満腔の思いで言わなければならないのである。  簡潔に申せば、ラブホは旅館業法と風俗営業法(いわゆる4号ホテル)の二種類どちらかの法の下で営業している。旅館業法で営業しているラブホ(レジャーホテルなどとも言う)はそのラブホが成立当時、旅館業として届けられたが実態はラブホ同然として営業しているものである。風俗営業法(4号ホテル)は、最初から「ここは男女の情交の場所である(店舗型風俗店)」、あるいは旅館業法で申請してから改めて風営法適用店舗としてお上に申請して営業しているものである。  現在、相次ぐ法改正により、多くのラブホテルは風俗営業法の下で営業しているいわゆる4号ホテルである。何が旅館業法適用で何が4号適用なのかは、フロントで客と対面するかどうか、室料清算が室内のみで完結されているか否か、浴室と客室は目視不可能な壁で物理的遮蔽されているかどうか、立地周辺に学校施設などが無いか、などの細かな差異があるのだが、長くなるのでここは割愛する。

ラブホは持続化給付金対象から除外

 さて政府の持続化給付金は、この4号ホテルを持続化給付金対象から除外している。これはラブホだけではなく他の風営法下で営業する性風俗店等でもそうである。本来、受給されるべき法人200万円の持続化給付金は、「ラブホは風俗店だから(4号)」という理由だけで給付除外となっている。  これはまこと甚だしき憲法違反である!憲法14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と謳っているにもかかわらず、法の下に平等でもなければまさに「社会的身分または門地」によって現下経済的差別を受けているのである。これが憲法違反でなくて何とするか。ラブホ業界は一致団結して、大弁護団を結成し一大国賠訴訟に臨むべきである!  そも、すでに本連載で繰り返し述べているようにラブホテルはもはや男女の情交を主たる目的としたものにあらず。私が何十年もやってきたように、一人静かに執筆をしたり、ただ風呂に入って映画を見る―、という憩いの場所となっているばかりか、夜勤明けのサラリーマンや営業マンが疲弊を癒すビジネスホテルの代替として機能しているのは当たり前で、周知のとおりラブホ女子会が推奨されるまでに至っている。  文字通りラブホは大都会、いわんや東京砂漠におけるオアシスそのものであり、ラブホは風営法4号に規定された「男女の情交の場所」という概念自体がもはや陳腐化しているのであり、であるからこそこれは当然給付金の対象となって当然なのである(むろん、他の風営法店でもその業態で差別があるとは言語道断である)。  さてこのようにお上に対し憤懣やるかたない思いであるが、それは一旦横に置くとしても、コロナ禍の緊急事態宣言下、ラブホはどのような状態であったのかは一億国民の喫緊の関心事であろう。

駅近の優位性は失われていた

 まず新宿歌舞伎町の状況である。宣言下の4月~5月、歌舞伎町を定点威力偵察した私の目に飛び込んだのは、その惨憺たる人気(ひとけ)のなさである。本連載第6回で縷々述べたように、歌舞伎町のラブホには駅(JR新宿駅)から徒歩で近い順番に、価格帯的にA、B、Cという格差があるのは暗黙の諒解である。私が第一回目に威力偵察したのは宣言の真っただ中の四月中旬某日、偵察日はあえて平時ならばラブホ街が最も活況を呈する金曜の夜であった。  ざっと俯瞰するに、むしろ駅から近いA立地のラブホに臨時休業の張り紙が散見された。全体としては全店舗の5%ないし8%程度の休業である。しかしこれはお上の自粛要請を受けた結果というよりは、そもそも繁華街に人がいないので、開店維持経費と休業損耗の経済合理性を天秤にかけて臨時休業となったのは言うまでもない。通常、歌舞伎町のラブホは男女のアベックが「ちょいと一杯(二杯)ひっかけて」からふらと寄るものが多い。よって逆に駅から近いラブホの方が通行人途絶の影響を受けて被害甚大であり、平時煌々と明かりをともすホスト街のラブホは臨時休転が目立ったのである。  しかしながら全体としては平時に対して9割が営業を続けていたのもまた事実であり、これこそ民草の自助努力のたまものなのである。

コロナ対策の徹底を謳うラブホ

 コロナ禍において入店客が減ったのであるなら、その入室料の廉価を以て客を呼び込むというのは通常のビジネスホテルの発想であって、ラブホテルの慣行から言って論外である。  なぜならラブホテルに入る男女アベックは、社会通念上の慣行として男性側が室料を全額払う場合が多数であり、「ラブホAよりBの方が500円安い」からいってラブホBを選択するということはほとんどない。興が冷めるというのもあるし、ラブホと男女アベックとの出会いは刹那的な場合が多いのである。だからと言うべきであろうか、ラブホ街では価格差による競争力ではなく、その備品・設備の潤沢たるを売り文句にして、続々とリゾート風ラブホに改装されているのである。これが旅館業法で定める一般的なビジネスホテルやシティホテルとの最大の違いである。  よって宣言下、鋭意営業するラブホテルには室料の値下げをしているところは、私の観察した中では存在しなかった。
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「密」監視のご時世において…
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