ライフ

パチンコの勝ち金で味わう1泊2万円の赤坂高級ラブホ/古谷経衡

高級地帯に佇む隠れ家的ラブホ

 そこで私が選んだのは、赤坂にある高級ラブホ「iroha」。正門には「デザインホテル」と謳っているが現代的な最先端の高級ラブホである。赤坂にラブホなんかあるのか?と思う読者諸兄もおられようが、東京における五大ラブホ街(歌舞伎町、渋谷、五反田、鶯谷、池袋)と比べて確かにラブホは圧倒的に少ないが、ゼロではない。赤坂地区には少なくとも3軒のラブホがある(従来は2軒だったが、2019年に1軒が新規オープンした)が、どれも高級店ばかりで、これまで私の独りラブホ道からすると全く射程に入ってこなかった店舗ばかりである。 「iroha」を選んだ理由は、「隠れ家」という宣伝文句にひかれたことと、また駐車場が出入り至便な入り口脇の平面平置きというのも惹かれた(都心のラブホテルには機械式もある)。よって実際にこのような都心の高級ラブホがどのようになっているかを威力偵察するのに最適だと思ったからである。  あぶく銭を握りしめて赤坂「iroha」に向かうと、閑静な職住混淆の高級地帯に確かにひっそりと間接照明でライトアップされた本館が佇んでいる。まさに隠れ家の呼び名にふさわしい。横づけ可能な駐車場にはBMWとかベンツが泊まっている。都心に住む富裕層をターゲットにしていることは明白である。  私など13年落ちの、35万円で買ったボルボに乗っているので、すわ引け目を感じてしまうが、元来独りラブホに遠慮などいらない。エイやとばかりに門戸をたたくと、これまた間接照明でライトアップされた階段があり、フロントまで直結ではない。フロントは2階にあり、そこまでエレベーターで昇る。タッチパネル式の値段表を見て多少驚く。宿泊料金が2万円の部屋しか空いていない。しかしあぶく銭は2万3000円なのでちょうど予算内に収まる。天佑神助とはこのことである。
イロハロビー

irohaのロビー内部(写真右はエレベーター)

イロハ廊下

正面から入ると間接照明に彩られたテラス廊下が迎える

イロハ室内

決して広くは無いが高級感漂う室内

イロハ浴槽

浴槽も近代的でデザインも洗練されている

 フロントには先客がおり、いかにも会社経営という感じの中年ブルジョワ男性が露出の多いアラフォー(?)の女性と一緒に室を選んでいる。まったく金というのはあるところにはあるものである。コロナ禍で世界的大不況が亢進する中、このような労働者の敵であるブルジョワジーは徹底的に粉砕しなければならない。  さて室に入ると、室内面積はそれほど広くはなかったが、随所に高級ラブホの風格が感じられる。ベッドも浴室も、ブルーの間接照明で水族館のような雰囲気を醸し出している。陳腐な邦画でよくある情事や不倫に使われる「ラブホ」の典型のような物件だが、一般的にラブホとは市民の生活実感に近しいものであるべきであって、日本映画やドラマにおける「ラブホ」の描写は必要以上に華美なものが多い。もっと殺風景で安いホテルをロケ地とするべきである。労働者人民と無産階級はこのような邦画のラブホ演出に対して、満腔の怒りをぶつけるものである。  しかしやはり一泊2万円の高級ラブホ、滞在は快適であった。都心にあっても一泊6000円台(平日)のラブホでは、ルームサービスと書いてあっても「今はやっていません」とか、「DVD完備」とあっても実際にはぶっ壊れているとか、夜中の3時にフロントに電話するとちょっといやな雰囲気を出されるとか、いまだにカセットテープレコーダーを備品として置いて撤去していないとか、冷蔵庫には霜がついて氷河の様になっているとかがざらなのだが、このホテルには流石そういった不具合が一切ない。  むしろこの値段でこのサービスなら安い部類とも感じた。本物件は自信を持ってお勧めできる高級ラブホで、六本木・赤坂界隈で飲んでラブホにしけこもうというブルジョア的アベックがいるなら、わざわざタクシーで歌舞伎町や渋谷に向かわなくとも本物件を推薦したい。  さて、次に宿泊する代金をねん出するためにまたパチンコをやりに行こうか。ちなみに私の後日の調査によって、私の座ったパチンコ台の機種は「海物語」と判明した。
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
1
2
おすすめ記事
ハッシュタグ