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アニバーサリーイヤーを迎えたMaison book girlのサバイブ術_コロナ禍のアーティストたち

 2014年の活動開始以来、トラックメーカー・サクライケンタによる現代音楽とアイドルポップをフューズした唯一無二の楽曲群と、グループの発起人・コショージメグミの先進的なステージ演出の数々で、アイドルシーンのみならず、J-POPシーンを騒がせ続けたMaison book girl。今年1月にはそのエンディングでメンバーが血まみれになるなど、シアトリカルな演出の数々を施した東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)での「Solitude HOTEL ∞F」公演を大成功のうちに収め、勢いそのままに4月には5年間の活動をアーカイブしたベストアルバム『Fiction』を発表し、それと前後してリリースツアーを回る予定だった。

Maison book girl

 がこの新型コロナ禍である。ベスト盤のリリースは6月末に延期され、ツアーもいまだ日程未定のまま延期を余儀なくされている。  しかしそこはオリジナリティあふれる活動を繰り広げる彼女たちのこと。春の自粛期間にはいわゆるアイドルグループとは一線を画すYouTubeライブ配信を行い、ベスト盤の正式発売日となった6月24日には無観客配信ライブ「Solitude BOX Online」を開催。ステージの生中継と映像素材をミクスチャするなど、配信ライブの意味を拡張するようなパフォーマンスを披露して見せた。
ベストアルバム『Fiction』

ベストアルバム『Fiction』

 新型コロナ禍にあって彼女たちはなにを思っていたのか? 今回日刊SPA!では彼女たちの個別インタビューを実施した。

矢川葵「もしかしたらこのままブクガの仕事がなくなっちゃうかもしれない」

――この春の自粛期間はNintendo Switchの『あつまれ どうぶつの森』で……。 ひたすら島を開拓していました(笑)。 ――あと資格取得の勉強をしていたんですよね? この5年間、本当にブクガ(Maison book girl)のためだけに生活してきたので、ライブもダンスの練習もできないし、撮影のためのかわいいお洋服を買いに行けなくなったし、という状況になったとたんに本当に不安になっちゃって……。「もしかしたらこのままブクガの仕事がなくなっちゃうかもしれない」ということまで想像しちゃって、歯科助手の資格の勉強を始めてみました。 ――では、この春、過去のライブ映像を鑑賞しながらメンバーがコメントを寄せるYouTubeライブ企画が始まったときはホッとした? コショージ(メグミ)が「YouTubeライブでなにか配信しよう」って言ってくれたときは確かにうれしかったですね。 ――その「なにか」がなぜ過去のライブ映像の鑑賞会に? コショージの提案を受けて、みんなで「あれはどうだろう?」「これはどう?」って相談したんですけど、そのとき「人狼ゲームみたいな企画ってブクガっぽくないよね」「そもそも全員ゲームとおしゃべりだけで時間を保たせられないし」ということになり……。
矢川葵

矢川葵

――ファンはそんな姿も楽しんでくれると思うけどなあ。  でも「配信で初めて私たちを知った方はきっとそんな映像楽しくないよね」という話になって。「じゃあ、私たちが今一番観てもらいたいものってなんだろう?」「ライブだよね」ということで、過去のライブ映像を観ながら解説する企画になりました。 ――そういう話を聞くに、ブクガのメンバーって戦略的だし、クリエイティブですよね。自分たちがどうあるべきかを常に考えている。 全員もう大人なので、そのくらい考えられないとダメだろうとは思っています(笑)。ただ「ライブ映像を観ながらコメントを配信しよう」って話にはなったものの、メンバーの中でパソコンを持っているのが和田(輪)だけで。私や井上(唯)はもちろんなんですけど、「YouTubeでなにかしよう」って言い出したコショージですら、和田に言われるがままにテレビをネットにつないで、その画面で配信中の映像を観つつ、YouTubeにつないだNintendo Switchでみんなのコメントを拾っている様子をスマホで撮影しただけ。そういう感じも、なんか私たちらしいな、という気がしています(笑)。

今のブクガとサクライケンタをパッケージしたベスト盤

――企画力こそあるものの、実行力は若干心許ないあたりもブクガらしさのひとつだ、と(笑)。で、新型コロナ禍のブクガとネットの話を続けるなら、みなさんは6月24日に無観客配信ライブ「Solitude BOX Online」も開催しています。 はい。 ――これもこれで衝撃的だったというか。ステージの中継映像に過去のライブ映像をインサートしてみたり、水の3D CG映像をステージに投影させて、あたかも水中でパフォーマンスをしているように見せたり、みんなで1台のスマホをパスしながら、そのカメラで撮影した映像を配信してみたり……。 「レインコートと首の無い鳥」を4回繰り返したり(笑)。 ――しかも4回ともメンバーの立ち位置もカメラ割りも違っているという。とにかく配信ならではの仕掛けが盛りだくさんの公演だったわけですけど、あれは誰の演出だったんですか? あれもコショージで、最初にセットリストが送られてきたときにはすでに「レインコート~」が4回並んでました(笑)。でも、これまでのライブでも途中までやっていたセットリストをもう1回最初から繰り返したり、みたいなことをしていたので、特に驚きはなくて。「なるほどね」って感じでした。 ――すでに立ち位置もダンスも体に染みついている楽曲を新しいフォーメーションでパフォーマンスするのって素人目にはすごく大変そうですけど……。 むしろそういう演出がないと物足りないかもしれない(笑)。そしてそれはファンの方も一緒みたいで「配信ライブをやります」「ベストアルバムをリリースします」って発表したら「ブクガだったらただの配信じゃないんだろうな」「ただのベストじゃないんだろうな」って言ってくれていましたし。 ――で、実際に6月24日リリースのベスト盤『Fiction』でもその期待に応えた、と。タイトルのうしろに「_」(アンダーバー)が付いている曲がたくさんありますけど、これはベスト盤用にリアレンジしたり、ボーカルを再録したりした曲なんですよね? はい。「bath room」みたいな初期の曲って、当時の音源を聴くと自分の歌声が幼すぎてちょっと恥ずかしかったし、ほかにも「今の声で録ってみたいな」いう曲がいくつかあったので、歌い直せてよかったです。 ――さらに「snow irony_」や、「karma」という楽曲のメロディに「cloudy irony」の歌詞をマッシュアップした「river」は原曲の「karma」のままの楽譜で歌い直すのではなく、キーを上げています。 4人ともデビューしたころよりキーが高くなっていて、最近「snow irony」や「karma」を歌うときに「音が低いな」と思うことが多かったので、今の私たちに合ったキーで歌えたのはうれしかったですね。 ――その矢川さんが繰り返している「今」って『Fiction』という作品をより深く理解するためのキーワードだったりします? そうかもしれないです。ベストアルバムって普通はそのアーティストさんの歴史を振り返るためのものだと思うんですけど、今回のアルバムには、今の私たちと、今のサクライさん(サクライケンタ。ブクガのサウンドプロデューサー)の姿が収録されていると思っていますから。「river」は今年1月のLINE CUBE SHIBUYAのライブで初めて歌った曲だし、ほかのアレンジし直した曲も、今のサクライさんが作りたい音になってるな、という印象を受けましたし。 ――矢川さんの想像する「サクライさんの作りたい音」って? ここ数年のブクガの曲を聴いていると「あっ、この曲、私たちの歌を信頼して作ってくれている」っていうものが増えている気がするんです。楽器の音数が減らしてボーカルをより聞こえるようにしてくれているというか。 ――確かにリリース順に曲が収録されたこのベスト盤を聴いていると、だんだんアレンジがシェイプされていく様子と、みなさんのボーカルがスキルフルになっていっていく様子がわかって面白いですよね。 初期のころはあまり歌声に抑揚をつけられなかったし、ハモリやユニゾンのパートはほかの3人とキレイに声を揃えなきゃってことばかりを考えていたんですけど、最近は自分でも、4人とも声で個性を発揮できるようになったし、その声のままハモることもできるようになってはいますね。 ――だからサクライさんは、いい意味でメンバー任せの曲を作れるんでしょうね。みなさんが歌えば「ブクガの曲」として成立するから。実際、ベスト盤用の新曲「Fiction」ではブクガの代名詞でもある現代音楽的アプローチすらしていない。4/4拍子の“普通にいい曲”です。 でもちゃんとブクガっぽい曲に仕上がっているんですよね。この曲は振り付けもちゃんとブクガっぽいからライブでみなさんに観てもらうのもすごく楽しみです。 ――新曲やアルバムのタイトルが「Fiction」であるとおり、ブクガって意味深かつ抽象度の高いタイトルや歌詞が目を引くグループだと思うんですけど、その意味をサクライさんとメンバー間で共有したりは? していないし、曲を聴いてくれる方に対しても「この歌詞はこういう意味で」と説明しなくていいのかな、と思っています。高校生のころボーカロイド系の曲をいっぱい聴いていたんですけど、ボカロ曲って歌詞の意味がわからないものがけっこうあるじゃないですか。でも、当時の私は勝手にイメージを膨らませて、その曲を楽しんでいて。ブクガの曲もそういう聴き方をしてほしいというか。歌詞カードを読み込んで「こういうことかな?」って考えてくれてもうれしいし、単にリズムやメロディが気持ちいいから、歌声が気持ちいいからって聴いてくれてもうれしいですから。 ――最後にこれからの2020年下半期にやってみたいことってあります? もっと島を開拓しようかなあ、って(笑)。ブクガとしてそれをやるのは違う気がするけど、矢川葵としてならゲーム配信をしてもいいのかな、とも思っていますし。だからまずパソコンを買いたいですね。そうすればゲーム配信もできるし、ブクガのYouTubeライブのときには私と和田だけ高画質で出演できますし(笑)。
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今だからできる最上級のことを目指して
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##(商品情報~アルバムタイトル)
『Fiction』

##(商品情報~収録内容1)
【CD】
01. bath room_
02. snow irony_
03. lost AGE_
04. cloudy irony
05. river
06. sin morning
07. faithlessness
08. townscape
09. rooms__
10. 言選り_
11. レインコートと首の無い鳥
12. 狭い物語
13. 夢
14. 長い夜が明けて
15. 闇色の朝_
16. 悲しみの子供たち
17. Fiction
18. non Fiction

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