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アニバーサリーイヤーを迎えたMaison book girlのサバイブ術_コロナ禍のアーティストたち

和田輪「三次元のリアル和田輪としてがんばります」

――ブログやTwitterや他媒体の記事によると、春の自粛期間中はギターの練習をしていたそうですね。 自宅がマンションなので、そのままの状態だと大きな音を出せないから、ネットでなんかモコモコした吸音材みたいなものとマイクを買ってギターと歌の練習をしていました。 ――しかもその動機は「なにか意味のあることをしなきゃ」だったと言っています。 はい。 ――つまりギターや歌のトレーニングは、いずれまた再開されるだろうライブ活動に向けた準備でもあった? そうですね。腕がなまるのがすごく怖くて。普段でも前のライブから1カ月くらい間が空くと、次のライブのとき「あれっ、声ってどうやってだしたっけ?」ってなっちゃうんですよ。特に今回は数カ月以上ライブの期間が空くおそれがあったので、歌声を忘れたり、歌えなくなったりしないように、普段からできるだけ声を出すようにしていました。 ――一方で、和田さんはブクガのYouTubeライブの配信担当でもあったんですよね? メンバーの中でパソコンを持っているのが私だけだったので(笑)。メンバーには「ネットにつながるテレビでライブ映像を流しつつ、Nintendo SwitchでYouTubeのコメントを読んでる様子をスマホに映してもらえれば、あとは私がなんとかするから」って言って、ムリヤリ全員の映像とライブ映像をつないで配信しました。
和田輪

和田輪

――そう考えるとブクガってメンバー間のデジタルデバイド(情報通信環境の格差)が大きすぎますよね。パソコンすら持っていないメンバーが75%を占める一方で、和田さんはただ1人、動画配信もできれば、アバターを自作して、VTuber・バーチャルワダリンとして活動していたりもします。 ねっ。パソコンが1台あればライブを観ることもYouTubeのコメントを拾うことも自分の顔を撮影することも全部できるのに、なんでみんな買わないんだろう?(笑) ――便利な上に、昔ほど値段も高くないんだからノートパソコンくらい買えばいいのに(笑)。ちなみに自粛期間中にバーチャルワダリンとして活動しようとは思わなかった? それはまったく思ってなかったですね。VTuber活動は老後の楽しみにしているので。 ――老後の楽しみ? VTuberっていつでも好きな見た目と声で活動できるから、私が年を取って、今とは見た目や声が全然違うものになったときにバーチャルワダリンとしてみなさんの前に登場したいな、と思っているんです。それまでは三次元のリアル和田輪としてがんばってみるつもりです。 ――実際、新型コロナ禍にあってもリアル和田輪さんはがんばってますよね。グループのYouTubeライブ配信は仕切っているし、6月に行われたブクガの無観客配信ライブ「Solitude BOX Online」には本当に度肝を抜かれましたから。 えへへへへ(笑)。よかったー。 ――ただ、矢川さんと井上さんは、あの演出プランをコショージさんから聞かされたとき「なるほどね」「OK」と思ったらしいんですけど、和田さんは? 5年間ブクガで活動しているうちにコショージに洗脳されちゃったのか、私も「なるほどね」でオシマイでした(笑)。1月のSHIBUYAでのワンマンライブではエンディングで血ノリまみれにさせられたし、ブクガのライブはそういうものなんだと思っていますから。あの配信ライブもそういうライブの一環。やっぱりブクガらしかったですし。私たちのライブってお客さんのレスポンスがなくても成立するスタイルだから、配信という場を与えられたとき、じゃあ音と映像で遊んでみよう、ってなれたんだと思います。

今のブクガやライブをも見通せるベストアルバム

――確かに「この曲のここではファンのコールやMIXが入るもの」という前提でライブをしているグループの場合、いくら配信ライブとはいえ、途中で映像を一旦ぶった切るような演出はできなそうですね。で、そういうブクガならではのライブの経験や演出って、その後の音源に反映されたりするものなんですか? すごく影響されますね。ベストアルバムの『Fiction』もライブを基板に作られた部分がありますし。「karma」という曲と「cloudy irony」という曲を合体させた「river」はLINE CUBE SHIBUYAで披露するために作られた曲をあらためて音源化したものだし、「room__」という曲は、もともと途中でいったん音が止まって、ちょっと経ってからまた鳴り始める構成になっているんですけど、アルバムバージョンと原曲ではその空白の秒数が違っていて。アルバムバージョンの「room__」の空白は最近ライブで使っているバージョンに合わせているんです。
――歴史を総ざらえしたベスト盤といいながらも、実は今のブクガのステージの様子も見通せる1枚になっている。 これまで「ブクガの音源ってライブとはまた別のよさがあるよね」って言われることが多かったんですけど、今回はライブでのビックリ感みたいなものも味わってもらえる作品になったんじゃないかな、と思っています。だからこのアルバムを聴いて「ライブを観てみようかな」ってなってもらえるといいですよね。 ――あっ、音源を聴いてもらうことよりもライブパフォーマンスを観てもらうことのほうが大事だったりします? いや、どっちもですね。ただ音源であればそれをレコーディングしたときの私たちの姿をいつでも聴き直すことができるけど、ライブはあくまで瞬間のものなので。音源を聴いた上で「じゃあ今のブクガはその曲をどう歌っているのか」ということを体験してもらいたいとは思っています。実際、初期の曲って歌っている私自身「この曲ってけっこう内省的だな」という印象を持つことが多かったんですけど、最近のブクガの曲についてはすごく広く世の中に対して開けている感じがしていて。そこには私たちの歌い方がそう感じさせている部分も少なからずあると思うので。 ――活動初期よりもポップに歌えるようになったみなさんが、過去の内省的な曲をいかにパフォーマンスするかをライブで体感してもらいたい、と。 そうですね。で、今回のベストアルバムでは、それを擬似的に体験できるはずだと思っています。アルバム用にボーカルを録り直した曲って全部、最近ライブを観たファンの方やスタッフさんから「もう昔の音源とは全然違う、別の曲みたいだね」って言われたものばかりなので。「あの曲を今のブクガが歌うとこんなに聞こえ方が違うのか」というところも楽しんでもらいたいと思っています。 ――ご本人的にも「過去の音源のボーカルとベスト盤の音源のボーカルって違うなあ」って思います? もちろん。ただそこに良し悪しはなくて。再録した音源がいい感じなのはもちろんなんですけど、再録前の子どもみたいな自分の歌声も悪くないですから。あとベストアルバム用のボーカルの再録自体は今年の初めごろにしていたんですけど、そのあと新型コロナの影響でライブがなくなっちゃったし、アルバムの発売自体4月から6月に延びちゃったので、この春ってギターの練習のときしか自分の歌声を聴いていなくて。6月にリリースされることが決まったあと、あらためて1月ごろの自分の声を聴き直してみたら、それもそれで新鮮で面白かったです。「おっ、再録したころの私、けっこう歌えてるじゃん」って(笑)。過去の音源を録ったころの私とベストアルバム用に再録したときの私、そして今のライブでの私。その3つの声を聴き比べてもらえたらいいですよね。 ――ところで、ベスト盤の発売や、そのリリースツアーが延期になったりと、明らかな形で春の仕事が減っていくことに不安はありませんでした? 「せっかくアルバムができたのに出せないのかあ……」とも思ったんですけど、逆にライブができなくなって、メンバーやエンジニアさんとレコーディングブースに集まることもできなくなったとき、「それでも私たちにはリリースできる作品があるからね」という事実は心の支えになってくれました。 ――そしてまだまだ予断は許さない状況ではあるものの、ベスト盤はリリースされたし、8月には配信ライブ第2弾があったりと、4月の緊急事態宣言発令当時よりは活動をしやすい状況になった今、やってみたいことってあります? 歌とギターの練習を続けていきたいのと、こういう状況だからできる活動について考えてみたいですね。まだまだ「お客さんを入れて全国ツアーを回ります!」って断言するのは難しいと思うんですけど、なにか表現することはやめたくないので。もうちょっとコンパクトめで、私やメンバーの力だけでできるものを見つけたいな、と思っています。 取材・文/成松哲 ##(プロフィール) ●Maison book girl(めぞん・ぶっく・がーる) 矢川葵、コショージメグミ、井上唯、和田輪からなる4人組アイドルグループ。2014年7月、神奈川・横浜アリーナでのアイドルグループBiS(第1期)の解散コンサートにおいて、そのメンバーだったコショージがサウンドプロデューサーのサクライケンタとともに新グループを指導することを発表。11月から現在の名義で活動を開始する。瞬く間に現代音楽を下敷きにした楽曲群で大きな話題と注目を集め、2016年11月にはシングル「river(cloudy irony)」でメジャーデビューをし、現在までに6枚のシングルと4枚のオリジナルアルバムを発表している。また2020年1月にはキャリア最大キャパシティとなるワンマンライブ「Solitude HOTEL ∞F」を東京・LINE CUTE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催し、6月には初のベストアルバム『Fiction』を発表した。またアルバムリリース日には初の無観客配信ライブ『Solitude BOX Online』を、8月には「孤独な箱で」を開催。コショージを中心とした制作チームの映像演出は大きな話題を集めた。
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##(商品情報~アルバムタイトル)
『Fiction』

##(商品情報~収録内容1)
【CD】
01. bath room_
02. snow irony_
03. lost AGE_
04. cloudy irony
05. river
06. sin morning
07. faithlessness
08. townscape
09. rooms__
10. 言選り_
11. レインコートと首の無い鳥
12. 狭い物語
13. 夢
14. 長い夜が明けて
15. 闇色の朝_
16. 悲しみの子供たち
17. Fiction
18. non Fiction

##(商品情報~通常盤Amazonリンク)
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