お金

「借金は恥ずかしいこと」だった18歳。むじんくんと初めて対面した僕は…

「借金しなければならないのでは?」と、魔が差すタイプ

 このときは、たった2万5,000円の家賃が重かった。おそらくこの時に初めての「金がなくて首が回らない状態」に直面しただろう。大学を中退して学生マンションを解約され、友達の家を転々としながらホームレス生活を送っていた僕にとって、固定費の存在は大きかった。  畳の隙間からゴキブリの顔がのぞくボロボロのアパートの中で、それまで一度も考えたことがなかったアイデアが浮かんでくる。 「これは、借金をしなければならないのでは?」  大人になってみると、意外と借金をしたことのある人たちはいる。しかし、その誰もがこの「初めての借金」の壁を乗り越えているのだ。生まれながらにして借金をする者はいない。  借金をしよう。するしかない。  そう決めてからは心臓が鳴りっぱなしだった。初めて酒を飲んだ時のような、まるでこれから万引きをするような、そんな罪の意識が心の底の方から湧いてくる。裕福な家庭で育った僕にとって、借金とは人の道をかなり外れた行為だと思っていて、自分の生活の外から金を集めることで世界中の人間の富を少しずつ盗んでいくような気がしていた。

借金=悪の道。いいとこの息子が人の道を踏み外してしまう恐怖

 ネットで「借金」「消費者金融」と調べる。次々と出てくる消費者金融の広告群。「借りすぎに注意」なんて文言は目に入らなかった。僕はこれから金を借りる。人の道を外れる者に人の道理は通用しない。  調べたところによると、どうやらこの世界には「むじんくん」なるものがあり、電話でもなく、インターネットでもなく、「むじんくん」という機械が借金の対応をしてくれるらしい。初めての借金をむじんくんでしようと思ったのは、なんとなく言い訳がしたかったからだ。インターネットで金を借りて、サイトの向こう側にいる誰かに、 「ははーん、こいつもただ借金をするクズの一人か」  と思われるのが嫌だった。例え機械だとしても、むじんくんに、 「僕は大学を中退して夢を追うためにここに来ました。パチスロで金がなくなったのは本当だけど、それも生活するためだったんです。運悪く金がなくなってしまい、家賃を払うのが困難になってしまっただけです。どうかこの可哀想な僕にお金を恵んでください。」  こう言いたかった。後の人生でわかることだが、世間ではこうして大義を傘に自分を棚に上げてワガママを貫こうとすることをクズと呼ぶらしい。  アコムのむじんくんを探す。自分の部屋の中なのに周囲を見渡し、画面を隠す。この様子を誰にも見られるわけにはいかないと思った。無論、京都には友達もいないし、僕のことを知っているのはいつも行くパチンコ屋の店員と、近所のローソンの店員くらいだろう。  調べてみるとむじんくんは家の近所に一つあったが、僕は自分の家から遠いむじんくんで借りようと思った。もしむじんくんに入るところを誰かに見られて、近所の人たちの後ろ指を指されるかもしれなかったからだ。京都の人間は陰湿だというネットの知識を鵜呑みにしていた僕は、 「おやおや、あのアパートの借金小僧がおりますどすえ?」 「ホンマやなあ、どないしはったんでしょ」  と、僕の後ろ姿を見ながら最悪な井戸端会議が開催されることを恐れていた。これも後からわかったことだが、京都の人間はそこまで他人に興味がないし、「どすえ?」とか、あんまり言わない。
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むじんくんの体内
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