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座って飲むだけ「チェアリング」缶ビールと椅子ひとつで天国に

外で飲むだけではない。奥深いチェアリングの世界

チェアリング協会の伊藤雄一会長

「公共空間でどう遊ぶかを工夫するチェアリングは、スケボーなどストリートカルチャーに似ている面があります」(伊藤氏)

「チェアリングの始まりは外飲みですが、必ずしもお酒が必要ではありません」と語るのは、チェアリング提唱者であるスズキ氏とパリッコ氏の友人であり、「日本チェアリング協会(JCA)」会長の伊藤雄一氏だ。  伊藤氏のチェアリング初体験は湾岸デートだったと振り返る。 「女性から『リュクス(豪華・優雅)な癒やしが欲しい』と誘われました。ただ都内で癒やしを求めるのは、かなりお金がかかると悩んでいるときにチェアリングを知り、椅子を持ってお台場に。砂浜に椅子を組み立てて、腰を下ろした瞬間気持ちよすぎて、彼女との会話はなくなりましたね(笑)」  残念ながら、このデートのお相手と結ばれることはなかったというが、このときの反動からか、伊藤氏は現在、チェアリングの普及に情熱を傾ける。 「公共空間に椅子を置いて、座る。ただこれだけの行為なのに、カフェや映画館、会社の椅子に座るのとはまったく違うんです。自分で座る場所、どう時間を過ごすかを選ぶから自由を感じられる」  日本チェアリング協会は「椅子ひとつで世界はあなたのリビングルーム」を標榜している。だが、伊藤氏は「チェアリングを突き詰めると、椅子すらも必要ないかもしれない」と語る。 「チェアリングの目的は社会のなかで、自分なりにくつろぐこと。椅子はその手段でしかない。剣の道に似ています。道を究めれば、剣がいらないのと同じ」

チェアリングで選挙運動を展開する人も!?

「選挙活動中はチェアリングとSNSのみ。ドブ板選挙は古いですよ」と池田氏(写真中央)は話す。新しい日本の選挙スタイルとなるか? 写真は池田氏提供。’19年の区議選の様子

 町おこしや観光にチェアリングを取り入れる動きが広がる一方で、’19年、東京都の杉並区議選に立候補した池田潮氏は、なんとチェアリングで選挙運動を展開した師範級だ。選挙戦は惜しくも敗れたものの、現在仕事の関係で軽井沢に滞在中の池田氏を訪ねると、「何億円もする別荘のテラスと同じ景色が椅子ひとつで手に入る。まさに“風景のハッキング”」と避暑地でもチェアリングを行っていた。 「駅頭での演説や街宣車とか、選挙活動の様子を見ていると、うるさいなぁと顔をしかめる人が大半です。そういう人は投票に行かないから、区議選の投票率は4割以下で、騒がしい選挙運動も変わらないまま。もっと多くの人に投票所に足を運んでもらうために、『うるさくない選挙運動』をしようと思ったんです。そこでチェアリング用の椅子を高円寺の駅前に並べて、有権者と直接話し合う選挙運動を展開しました。今度こそ必ず勝利してみせますよ」  次のチェアリングは、政治家の“椅子”となるのだろうか。 <取材・文/村田孔明(本誌)>
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