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Go To トラベルはラブホへ。宿泊サービスの粋が集まっている/文筆家・古谷経衡

ジャグジー風呂

ラブホに足りないサービスは事前予約だけ

 元来、ラブホへの来館は「刹那利用」が主と言われてきた。刹那利用とは、男女のアベックが情交の場所を求めて、特に大きな考えも無しに刹那的な衝動でもって来店する利用方法である。これによって東京五大ラブホ街(渋谷、歌舞伎町、五反田、鶯谷、池袋)や郊外のIC付近にあるラブホは、そのラブホ集積地帯特有の標準的価格帯やチェックイン・チェックアウト時間が暗黙的に統一的である場合が多い。  要するに利用者の多くがホテルの良し悪しを吟味して選別のうえ宿泊するのではなく、単に情交の場所を求める衝動の結果として来店するのだから、駅から遠い・近いとかICの出入り口からの至便性という差はあっても、利用価格帯や館内施設に極端な差異を設けて来店客に訴求するのは無意味であるという考え方があったのである。  しかしラブホがいつしかレジャーホテルと呼び変えられ、ラブホが単に情交の場所ではなく、東京砂漠に代表される無味乾燥のコンクリートジャングルにおいて、唯一燦然と輝くオアシスとして多種多様なアメニティやサービスを提供する場所に進化すると、各ラブホは様々な差別化を図るようになった。  実を言うとラブホ界隈で最も遅れていたのが、事前予約制度の導入である。すでに述べた通り、ラブホ来館は「刹那利用」が主とされてきたので、予約制度の導入は必要が無いと考えられていた。ショートタイム(2~3時間)、昼間から夕方にかけてのサービスタイム、概ね夜20時前後からの宿泊、で客を最低3回転以上させるラブホの特性上、予約を受け付けて準備をしても来館しなかった場合は機会損失が大きく、現在でも多くのラブホは予約制度を導入していないのが実態である。

3500円に付随するサービス

 だがこういった業界の慣習も、見直されつつある。特に旅館業法で営業するラブホは、大手宿泊サイトなどに登録し、そこから予約客を受け付けるようになっている。この形態のホテルが「Go To トラベル」で3500円の公費助成が受けられるラブホである。大体において、ラブホ界隈にあっては立地の別なく平日で1泊1万円を超えてくるラブホは、準高級の部類に入る。  これが「Go To トラベル」で3500円の助成が受けられると、額面上は6500円となる。平日で1泊6500円となると、ラブホのメッカ・新宿歌舞伎町の最も安価なCゾーン(第6回“ラブホ格差地帯”新宿歌舞伎町の正しい(!?)歩き方参照)の水準である。たかだか3500円の差ではないか、という意見があるが、ビジネスホテルの3500円の差と、ラブホテルの同額の差の違いは、合皮と本革くらい違うから試しに泊まってみることをオススメしたい。  平日1泊6500円のラブホテルと、1泊1万円のラブホテルでは壁紙はおろか、隅々のアメニティ、VODの質的充実、浴室テレビやミスト(サウナ機能)の有無まで、何から何まで違う。エコノミーとファーストクラスの違いよりも違いを実感できること請け合いである。3500円の差とはこれほどのものかと理解していただけよう。1泊1万円を超えるラブホは当然の事ながら中産階級に向けられたもので、筆者の様な「独りラブホ道」を極めるものとしては、滅多なことでは利用しない。  しかしそれも官が3500円を補助してくれてクーポンも出るのならば、この際郷に入りては郷に従えで泊まる価値は十二分にある。「Go To トラベル」の最も有効な活用方法は、本来手の届きにくかった1泊1万円以上のラブホに実質的に6000円~7000円程度で泊まりまくり、我が国宿泊サービスの粋を集めたラブホを存分まで堪能するところにあろう。その一点に於いて「Go To トラベル」にも価値はあるかもしれない。
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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