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Go To トラベルはラブホへ。宿泊サービスの粋が集まっている/文筆家・古谷経衡

ラブホ街

第23回/Go To トラベルでラブホに泊まろう!

 官が推進する「Go To トラベル」での宿泊料金の事実上の公費助成が、ラブホテルでも適用されている事実はあまり知られていない。簡潔に言うと、ラブホテルには旅館業法に則って経営されているホテルと、風俗営業法に則って経営されているホテル(これを俗に4号ホテルなどという)の2種類があり、「Go To トラベル」での公費助成がなされるラブホテルは前者の旅館業法に基づくラブホテルである。  とはいっても、ラブホテルの外見を見ただけで「このホテルは旅館業法、こちらは4号」と鑑別するのは素人には大変難しいので、「Go To トラベル利用可能なラブホテル」などの検索サイトがすでにあるから、まずこちらを参考にして事前に調べてから滞在・宿泊予約するように心がけたい。  ただしそもそも筆者はこの官製キャンペーンである「Go To トラベル」には反対である。まず第一に、この「Go To トラベル」は中産階級向けの政策であり、日本人全体に恵沢をもたらすものでは無いからである。日本人勤労者世帯の収入は、ここ数年来ずっと漸次減少を続けている。  更にそこへきて第二次安倍政権下では二回にわたって消費税増税が敢行されたため、ただでさえ漸減傾向にある勤労者の可処分所得は実質的に目減りし、一方物価上昇は消費増税分が全て小売価格に転嫁されたとなると増税分がそのまま物価上昇率となり、「所得は減るが物価は上がる」というスタグフレーション状態に陥っている。  そういった中で、無産人民が最初に切り詰めるのは遊興費であり、最たるものは行楽費の類である。にもかかわらず宿泊(日帰りも含む)に対し「Go To」の名の下で公費助成を出すというのは、こういった無産人民の消費を喚起する効果は絶無で、元来余裕のある中産階級以上のプチブルに対する野放図で過剰な支援であると言わざるを得ない。  土地持ちとか高級外車を乗り回すいけ好かない成金は、筆者が仇敵とするところの唾棄すべき有産階級である。こういったいけ好かないプチブルは、高層階のレストランで間接照明(疑似ローソクみたいなやつ)に照らされたテーブルに鎮座ましまし、赤ワインを飲みながら上等な牛肉を食って、眼下に行きかう無産人民を睥睨し、ニヤニヤして株の事とか保険の事とかを話し合っているに決まっているのである。

有産階級への補助は必要か?

 こういった層は保障が無くとも生きていけるので、政策としては援助など与えずに放っておくのがよろしい。高級ホテルや旅館に宿泊して得をするのは「Go To」のあるなしに関係なく宿泊を楽しむ余裕のある中産階級以上であり、富むものがますます富み、持つものがますます恩恵を得、貧しき人民はますます自然状態の中に放置され、ひたすら上級国民に敵愾心を持つに至るという、リヴァイアサン的悪夢を呼ぶだけの愚策の極地が「Go To トラベル」であると言えよう。  しかもこれに帯同して、使用期間は短いものの宿泊地の都道府県とその隣接県で使える1000円単位の「地域クーポン」が上限はあるがついてくる始末。宿泊代の公費助成の上に実質的な現金還元である。なぜこんなことをしてまで余裕のある中産階級を助けないとならないのか、私にはよくわからない。  いま必要なのは、有産階級への補助ではなく、無産階級にも均一にいきわたる定額給付金の数次の一律給付、かつ最低でも半年間程度継続する給付金(実質的な短期ベーシックインカム)そのものである。  しかし官の「Go To トラベル」が始まった以上、腹はたつもののこれを利用しないという手もない。どうせなら高級ホテルや旅館よりも、ラブホテル(旅館業法)での予約でこの「Go To トラベル」の恩恵を受けようではないか。そもそもを言えば、「Go To トラベル」の対象となるラブホが、旅館業法にはOKで、風営法(4号)には不適用という事態で憲法違反だが、それは違憲訴訟を誰かが起こしてくれることを期待しつつ、まずは「Go To トラベル」を使ったラブホの楽しみ方である。
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ラブホに足りないサービスは……
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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