ギリギリまで続く攻防
気がつくと14時になっていた。レースの開始は15時半くらいなので、そろそろ馬券を買いに行かなければならない。僕がこれまで馬券を買うために使っていた口座は引き落とし地獄で使えなくなっているので、WINSと呼ばれる馬券売り場まで行かなくてはならない。近いのは銀座、次いで水道橋。電車で30分も乗れば着くが、準備はそろそろしなくてはならない。
「ちなみに……WINSで買おうとしてます?」
含みを感じる言い方に、コロナがよぎる。行間とクエスチョンマークに全てが詰まっていた。
読める、僕には。
「WINS、やってないんですか?」
「14時で閉まります」
しまった、と思った。ここまで考えて馬券を買わないなんて、そんなマヌケな事はできない。
厚顔無恥なのでSPA!の担当と連絡を取り合い、近所に来てもらって代わりにネットで買ってもらうことにした。喫茶店で合流した時点でもう15時を回っていた。振り込まれた5万円は途中でおろしてその時に返した。
「では……」
そう言って取り出したるは15インチのiPad。開いてすぐに馬券を買う画面が開いてある。知らない馬券、知らない買い目が並んでいる。
この男もまた、博打に取り憑かれた人間だった。
「犬さんが負けても貸した分を取り返せる馬券を買うんですよ」
そんな馬券があるのなら、一生競馬で食っていけるだろう。
僕たちは締め切りギリギリまで悩んだ末に、
1着 アーモンドアイ
2着 コントレイル or カレンブーケドール
3着 コントレイル or カレンブーケドール
という2種類の馬券に1万円ずつ、あとは三連複と呼ばれる、選んだ馬のうちの3頭が順不同で3着以内に入れば当たる馬券を3,000円で10枚買った。
ここにはさっきの3頭のほかに、外枠のグローリーヴェイズと3番人気のデアリングタクト、有名騎手「武豊」が乗るワールドプレミアの2頭を、アーモンドアイを軸にして追加した。
1万円の馬券が当たれば40万か70万になる。
僕はどうしてもいぶし銀、カレンブーケドールが3着以内に入ると思ってかなり推していたが、担当はどうも騎手と内枠の不安が取り除けなかったらしく、僕がダメ押しで、
「僕が東京に出てきて初めて好きになった女の子の名前がカレンなんですよ」
と言うと、
「二度とその話しないでください」
と返されてしまった。
本気と本気がぶつかりあった。恥ずかしさのあまり脇から玉汗が出て、シャツに染み込んでいく。
レース序盤の展開を考えるのは素人の僕には到底無理だったので、終盤の展開を予想した。
最後の直線に入り、前に出た他の馬を捉えたアーモンドアイが先頭に躍り出る。それを追いかけるカレンブーケドール。
コントレイルも馬群から抜けるが、揉まれて少し遅れて出てきてしまう。
デアリングタクトは最後尾から一気にスパートをかけるが、こちらも真ん中からの出走だったため、前にいる3頭が邪魔になって惜しくも4着。
実質、アーモンドアイとカレンブーケドールのレースだ。カレンブーケドールはきっとギアを上げたアーモンドアイについていくだろう。
「せっかくだから見ましょうか」
担当はiPadで競馬チャンネルを映した。喫茶店が混んでいたのかどうかすら覚えていない。そこにはiPadと、金を賭けた僕ら、そしてジャパンカップの15頭しかいない。
今年流行った曲が次々と流れる現代の喫茶店で、古臭くてダサいラッパの音が流れた。
レースが、始まる。
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
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