更新日:2022年05月06日 20:14
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「ラブホで黙食」のススメ。現代社会に残された真の密室/文筆家・古谷経衡

黙食

第26回 ラブホで黙食のススメ

 コロナ禍で「黙食」という言葉が取り沙汰されて久しい。曰く飲食店において飛沫感染防止の為にできるだけ黙って食事してください、というものである。確かに新型コロナについての種々の解明が進み、飛沫による感染防止は喫緊の課題になっていることは否めないところである。  しかしながら、飲食店で「黙食」を徹底しても、空間内に漂よう飛沫がゼロになるわけではない。話をしないというだけで人間はくしゃみもするし咳もする。まずオーダーの際には定員との会話は普通、必要であるし、会計時にもある程度のコミュニケーションが必要である。つまるところ飲食店における「黙食」とは、感染遮断に於いては完全なる効果は無いものの、やった方が良い、という程度で絶対的効果があるわけではない。  そこで私が提唱したいのが、ラブホテルに独りで逗留して行う「黙食」である。本連載で私が繰り返し指摘してきたところであるが、ラブホはその性質上、密室性、密行性が要求されるので、第一に他者との接触が極めて少ない物件である。  シティホテルのようにロビーが存在するラブホはまず無く、空室ボタンを押せばキーを受け取って即座に室に行くことができる。いわゆる4号ホテルは、旅館業法ではなく風俗営業法によって規制されているため、フロントで宿泊者台帳に客が記入する必要は慣行的にない。ラブホこそ究極の密室であり、フロントから室への客の動線が断然にシティホテルに比べて短時間で完結するのである。  現在のラブホは、多くの場合ラブホ内で食事を供しており、その値段は廉価で、シティホテルのルームサービスよりもはるかに優秀である。またピザ店や寿司店、中華店と提携していることが多く、部屋に出前を頼むことができる。ただコロナ禍に於いて飲食店の出前状況も変化しているので、必ずしもコロナ禍前と同様という訳にはいかない。

コンビニグルメの一例を紹介

 そこでラブホにおける「黙食」は、第一にまずラブホにチェックインしてから近場のコンビニへと外出する。本連載で繰り返し述べているように、「ラブホは外出不可能」というのは今や根拠のない都市伝説で、フロントに一言いえば外出は自由である。外出自由をうたい文句にしている物件もあれば、外出について特段の文言が無い物件もあるが、基本的に外出は自由であるので恐れる必要はない。  大都市部にあるラブホは大抵の場合、都心の繁華街に存在する。首都一帯等に発令された緊急事態宣言の影響で夜8時にはほとんどすべての飲食店がシャッターを下ろし、ラストオーダーは夜7時半とかになっている。  コロナ禍において、独りラブホ道を極める私からすれば、ラブホにチェックインした後、夜の繁華街の居酒屋を開拓しつつ、独りグレープフルーツチューハイをやる、という楽しみは失われつつあるが、どうで特段の心配はない。コンビニがその代替となるからである。  私が好きなのは、まずひとパック35~40gくらいの生ハムを4個位とサラダの類を少々、付け合わせにパックの焼き魚などを求める。日本的居酒屋にはメニューに生ハムがなく、洒落たイタリアンにはそれがあるものの量の割には高く、提供も遅い場合があり甚だ不経済である。よって私がコンビニでまず求めるのは生ハムと決まっている。当然のこと割り箸の添付を忘れてはならぬ。  これをラブホの室に持ち込み、VODで未見の邦画などを流しつつ、ぺりりと生ハムパックを破くと、何とも言えぬ香ばしいにおいが充満する。酒類はあえてコンビニで買うのではなく、ラブホ内の自販機冷蔵庫かフロントに注文する。これは私が独りラブホを愛し、少しでも経営者に利益を提供せんという慮外ともいえる心遣いであるが、コンビニで酒を買い込むとつい飲みすぎになるからセーブするため、という意味合いもある。
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コロナ禍で宿泊開始時間に変化が
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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