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70年続く洋食店が「メニューは一切変えない」と言い切る理由

シェフのおすすめ・かきソーテー

町洋食

冬期のみ提供されるかきソーテー(2000円)。かきを使ったメニューは他に、かきフライ(1700円)、かきチャウダー(1400円)がある

 冬期ならではのシェフのおすすめがかきソーテー(バター焼き)だ。  洋食屋のかきバターといえば、ニンニクバター油味でいかにも人懐こい甘辛味のご飯が進む一品を思い浮かべるが、グリルエフのそれはやはりというべきかそういう和に寄せた要素は一切ない。味つけはかきに振った塩コショウの下味のみ。それを「混合ワイン」とレモン汁のみで仕上げる。  混合ワインとは、ワインと日本酒、その他秘密の酒を混合した店独自のもの。具体的な配合を尋ねたら笑ってかわされてしまったが、これも創業以来のものだ。戦後しばらくは日本に良質のワインが入らず、洋食料理人は四苦八苦したという話を聞いたことがあるが、これもまたそんな時代に生み出された知恵の結晶なのかもしれない。  混合ワインが味に与える影響はわからないが、このかきバター焼きもまたまごうことなき西洋料理。かきそのものの濃い旨味がレモンで引き締められ、ライスより白ワインを合わせたくなる、澄み切った、かつ豊潤な味わい。

「メニューは一切変えるつもりはないし、レシピも変えない」

町洋食

長谷川シェフが調理するかきソーテー。ベーコンも使用されており、塩味を加えている。つけ合わせはシンプルにパセリが添えられている

 フランス語交じりの流麗なメニュー表にはまだまだ数々の魅力的な料理が並んでいる。  コキール、フリカッセ、エスカロップなど、かつて定番だったが今となっては洋食屋のメニューからもフランス料理店のメニューからも消え去ってしまったそれらは、ほとんどの日本人にはどんな料理かすらわからないのではないだろうか。 「メニューは一切変えるつもりはないし、レシピも変えない」  長谷川シェフはそう断言する。  なぜならば初代シェフが作り出したそれは最初から完璧なものであり、現在それを作る自分は味見するたびにそのことを確信すると。そして、お客さんもそれをずっと支持してくれている。変える理由は何ひとつないとも。
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メニュー表の筆記体からも理知的でしゃれ者めいた人柄が漂ってくる
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関東・東海圏を中心に和食店、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの飲食店26店舗を経営する円相フードサービス専務取締役。自身は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に業態や店舗プロデュースを手がける

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グリルエフ
東京都品川区東五反田1-13-9
ランチ11時~14時30分(ラストオーダー14時)、ディナー17~21時(ラストオーダー20時40分)、日曜祝祭日定休
昭和25年創業の老舗洋食店。レンガ造りの外観や入り口の内装なども創業当時のままだという
(コロナの影響により営業時間はお店にご確認ください)

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