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70年続く洋食店が「メニューは一切変えない」と言い切る理由

メニュー表の筆記体からも理知的でしゃれ者めいた人柄が漂ってくる

町洋食

稲田氏が洋食店で行う儀式の一つ“パセリの儀”。単体では苦手な人も多いだろうパセリをちぎり、散らすことで食べやすく風味も豊かにする

 45年前に18歳でこの店に入った長谷川青年は、その後十数年にわたって初代シェフ斎藤公男氏に師事した。その間、「斎藤さんはその技術の全てを自分に教えてくれた」と長谷川シェフは述壊する。  メニュー表は実は今でもその当時の斎藤シェフによる手書きをコピーしたものだ。価格だけを書き換えながら今もそのまま使用している。  そんな話を聞きそのメニュー表を眺めていると、このストイックな子弟関係がどういったものであったか想像がかき立てられる。斎藤シェフは法政大学で英語を学び、一時期は外洋航路船の通訳としても活躍したという。当時の料理人としては珍しい「インテリ」である。メニュー表の筆記体からもなんとなくそんな理知的でしゃれ者めいた人柄が漂ってくるようだ。 「修業はつらかったでしょう」と尋ねた私に長谷川シェフは「別にそんなことはありませんでした」と即答した。  もしかしたら斎藤シェフは卓越した料理人というだけでなく最良の師匠であり上司でもあったということなのかもしれない。いや、きっとそういう魅力的な人物であったに違いない。  お店と料理と現代の料理人を通して過去の人物像に出会える。こういうのもまた歴史ある店を巡る楽しみの一つなのだろう。 【稲田俊輔】 鹿児島県生まれ。自身も飲食店を手掛ける飲食店プロデューサー。著書に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社)、『南インド料理店総料理長が教えるだいたい15分!本格インドカレー』(柴田書店) <取材・文/稲田俊輔 撮影/山川修一(本誌)>
関東・東海圏を中心に和食店、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの飲食店26店舗を経営する円相フードサービス専務取締役。自身は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に業態や店舗プロデュースを手がける

飲食店の本当にスゴい人々

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グリルエフ
東京都品川区東五反田1-13-9
ランチ11時~14時30分(ラストオーダー14時)、ディナー17~21時(ラストオーダー20時40分)、日曜祝祭日定休
昭和25年創業の老舗洋食店。レンガ造りの外観や入り口の内装なども創業当時のままだという
(コロナの影響により営業時間はお店にご確認ください)

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