更新日:2021年02月19日 10:47
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コロナワクチンの輸送にジャンボジェット8000機が必要となるワケ

すべてのワクチンを運ぶためにはジャンボジェット8000機分が必要!?

コロナ輸送

日本で唯一ボーイング747‐8F(ジャンボジェット)を持つ日本貨物航空/NCA 撮影/北島幸司

 そもそも航空輸送の機内環境は、機種と搭載場所によっても変わるが、3℃から27℃の範囲で温度コントロールができるようになっている。そのためこのままでは-75℃にはならない。一般的な冷凍庫のように電気式では-20℃が限界で、-75℃まで温度を下げる設備は航空機用には開発されていないのである。となると、取れる方法としては、あらかじめ積みつけて、航空機に搭載できるULD(Unit Load Device)と呼ばれる入れ物や梱包内にドライアイスを入れてワクチンの入った箱の温度を下げることになる。  昨年、IATA(国際航空運送協会)は、全世界で必要なワクチンをボーイング747ジャンボジェットの貨物機で運ぶと8000機が必要となるという試算をした。これは、ジャンボジェットの搭載量100トン全部をワクチンで搭載したとしても8000機かかるという意味であり、計算上では80万トンのワクチンが運ばれるということである。  実際に運航する航空機では、ドライアイスの搭載制限があり、ジャンボジェット貨物機でも1.8tのドライアイスしか搭載できないので、必然的に一機の搭載量は減ることになる。それならばジャンボジェット貨物機だけで運べばいいだろうという考えはできない。米国の航空機メーカー、ボーイングの試算では、世界で飛ぶ航空機2万6000機のうち、貨物機のシェアは2010機。全体の8%と多くはないからだ。それでは、どうやって多くのワクチンを運ぶのか。

一度に運べるワクチンの摂取量は21万回分程度か

 瓶入りワクチンの一瓶単位をバイアルと呼び、ワクチンの一瓶で5回接種ができる。最小輸送単位の一箱で195バイアル(975回接種分)が入る。ここまでは公表された数字である。これから説明する輸送数に関する数字は、筆者の推測になることを最初におことわりしておきたい。なぜなら政府がワクチン輸送に対する情報公開を禁じており、さらに輸送業者のDHLや輸送主体のANA、JALも筆者の取材に回答がなかったためだ。  ワクチンが入る箱のサイズはおよそ50㎝×50㎝×50㎝ほどとなりドライアイスが敷き詰められる。実際に、航空機で運ぶとするとこの箱をまとめて、コンテナやパレットという板状のULDに載せ積み上げて輸送する。実際に、どの程度が1ULDに入るのかを検証してみた。航空貨物で汎用性のあるPMPという板状ULDのパレットに何個積み上げられるのか計算してみた。ULDの内寸で航空機の床下に搭載できるサイズは、300㎝×200㎝×160㎝になる。50㎝辺のダンボールが6×4個並べられるので、24個で1段となる。これを3段積み上げられるので、合計72個が1ULDに入ることとなる。  このULDには、ドライアイスを制限量の200㎏になるまで入れてあるはずで、72箱は接種回数に直すと1万4040バイアルで7万200回分が1ULDで運べる数となる。ボーイング787‐9型機ではドライアイスは600㎏の搭載制限がある。よって3ULDで21万600回分が一機の輸送量となる。仮に旅客機貨物便だけで全ワクチンを輸送するとなると、1.44億÷210,600で684回となる。これでは毎日一便飛ばしても、2年近くかかる計算だ。
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ワクチン輸送のために規制緩和が待たれる
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航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「Avian Wing」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram@kitajimaavianwing

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