更新日:2021年03月09日 12:00
恋愛・結婚

ストリップ劇場に通いつめる女性を直撃「なりたかった私が踊っていた」

むき出しの空調ファン、色褪せた壁、時代を感じる内装

 大人が数人入れるほどの狭いロビー。券売機からチケットを買う。早朝割引の一般料金で4000円、女性料金3000円。入れ替えなしで、11時の開館から終電間際の閉館まで楽しむことができる。日によって違うが、一日4公演。公演期間は10日ほどにもなるという、踊り子にとってはハードスケジュールだ。「プンラス(オープンからラストまで居座ること)は一回だけやったことありますね」とMさん。月に最低3回は観劇にくるという入れ込みっぷりだ。  劇場はバスケットボールのコート一つ分よりやや大きい、こぢんまりしたもの。T字型の構造になっていて、歌舞伎でいう「花道」のようなものが舞台中央から出っ張っている。クッションの薄い数人掛けの長椅子がその周りを取り囲む形になる。下手には香盤が掲げてあり、その日公演する6人の踊り子たちの名前が記されている。きょろきょろ劇場内を見渡すと、どの舞台用具も相当年季が入っていることに気づく。むき出しの空調ファンがぶんぶん唸る。照明用具は埃でくすみ、壁は色褪せている。周りの客層も中年以上の男性が中心だ。 「劇場によって客層にも差があります。この劇場は確かに男性中心ですけど、最近はカップルや女性の団体客の姿はそこまで珍しくないです」  説明を受けている間に客が続々入り、最終的に集まったのは4、50人ほどだろうか。20代くらいの男性の姿がまばらにあるが、残念ながらその日の女性客はMさん一人だけのようだった。  そうこうしているうちに、開演時間になる。暗転。劇場スタッフがいくつかの注意点をアナウンスする。スポットライトがエプロン姿の踊り子を照らし出した。Mさんの「推し」、黒井ひとみさんのパフォーマンスが始まる。

踊り子ごとのテーマ性、小道具の多様さ

 黒井ひとみさんの他に何人か別の踊り子見ているうちに、あることに気づいた。彼女たちにはそれぞれ個性的なパフォーマンススタイルがある。民族舞踊のようなステップと連続回転を繰り出す華麗な舞いが持ち味の踊り子もいれば、何もない空間からパッと番傘を取り出しては広げる、トリッキーさが見どころの踊り子もいる。  体型も実に様々だ。あばら骨が浮き出るほど華奢な体つきもいれば、長身で肉付きのいい体型も見かける。共通しているのは、誰一人自分の肉体を恥じず、堂々としている点だ。踊り終わるころには玉の汗がじっとりと肌を湿らせている。十分扇情的な光景のはずなのだが、なぜか卑猥さは感じない。来る日も来る日も練習に明け暮れたであろう、その努力が一筋の汗と一緒に滲み出ているようにさえ見える。  そしてMさんいわく、黒井ひとみさんの持ち味は、そのストーリー性だ。ただ踊って脱ぐという単純な演技ではなく、指先・爪先まで神経が通い感情がこもっている。見ているうちに自然と想起してしまったのは、フィギュアスケートの大会だ。表情、腰のしなり、間の取り方。曲の変調にぴたりと演技を合わせる計算しつくされた舞台。照明との連携も絶妙だ。  そして何より、小道具の使い方がうまい。この日、黒井ひとみさんがみせたのは、このようなストーリーだった。  子持ちの主婦が、ストリッパー時代のドレスを衣装箱から取り出す。うっとりと過去に想いを馳せる。まだ子供が生まれる前のあの頃……。エプロンを脱ぎ、ドレスに再び身を包む。そうして過去を懐かしく思うも、最終的にはドレスを脱ぎ捨て、家庭を持った今の幸せに目向けて静かな終演を迎える。  ストリップショーは基本的に「衣装を着て登場(第一部)」「下着姿になる(第二部)」「下着を少しずつ外しながら踊る(第三部)」という三部構成になっているようなのだが、「脱ぐ」という部分にドラマ的な意味を持たせた演技は、彼女だけだったように思う。
次のページ
ストリップは瞬間の芸術
1
2
3
4
おすすめ記事
ハッシュタグ