更新日:2021年03月09日 12:00
恋愛・結婚

ストリップ劇場に通いつめる女性を直撃「なりたかった私が踊っていた」

ストリップは瞬間の芸術

 Mさんは終始、彼女の演技に入り込んでいた。手拍子をしたり、曲にあわせてうなずいたり、目の前で起きていることを全て目に焼き付けておこうと、食い入るように見つめている。当たり前だがストリップショーはビデオ撮影ご法度なので、その時の公演はその瞬間にしか見られない。瞬間の芸術でもあるのだ。  Mさんは同人誌の中で、黒井ひとみさんの演技についてこう語っている。以下、細部を調整した上で引用させていただく。 「彼女の演じる女性は可哀想な目に遭っていることが多いのだが、最後はそれぞれに幸せを掴んでいる。それが必ずしも世間一般の『幸せ』でないところが演目を見ている女性たちの、全ての生き方を肯定しているようだ」  終演後、おひねりを渡す時間も終わると、いよいよ写真撮影の時間が始まる。500円で一枚、踊り子を「好きなように」ポラロイドカメラで撮影できるのだ。「行ってきます」と一言残し、500円玉を握りしめたMさんが15人ほどの行列にまぎれていった。  黒井ひとみさんはその日の演者の中では最も気さくで、明朗に話す。観客と演者という垣根も感じさせず「お久しぶりです」と一人一人、見知った仲のように接する。前にいつの公演を見に来たか、しっかりと記憶している。「怒っているかんじで!」というリクエストにも、とっさに機転を利かせて仁王立ち。頬を膨らませて腰に手を当てる。サービス精神も旺盛な人だ。  そしていよいよMさんの番になる。黒井ひとみさんの前に立った彼女は、まるで恋い慕う相手を目の前にした乙女のようになる。言葉少なげに感想をぽつりぽつりと伝えると、黒井さんが嬉しそうに表情を和らげて感謝の言葉を返す。男性ばかりの環境の中で、その二人だけが何か特別なものを共有しているように見えた。

自分に対して優しい気持ちになれる

Mさん。当日は劇場のマナーを丁寧にレクチャーいただいた

 一回目の公演後、Mさんにこれまでの経緯を詳しく伺うことができた。ストリップ劇場にたどり着くまで、彼女に何があったのだろうか。 「大学を卒業して地方の実家から上京した2014年に、ちょっとした冒険のつもりで浅草で公演を見たんですが、その時は一回限りでリピートはしませんでした。観劇のお作法がわからなかったので」  意外なことに、最初に見た公演では興味深くは思ったものの、特にはまり込むことはなかったという。本格的に通いだしたのはその数年後のことだ。  その頃、映像作品のレビューやコラムの執筆など、好きだった文章の仕事に精を出していたMさん。確かに同人誌を読んでいても的確な描写と構成が光っていた。  しかしその後、彼女は仕事で大きなつまずきを経験する。社員との距離感が近い男性上司とうまく折り合いがつかなかった。仕事自体は好きだったのにも関わらず、退職することになったのだ。 「上司は女性社員にも容赦のない人で、容姿をあげつらわれたこともあります。元々引っ込み思案なのもあり、大きい声が出せないのですが、そこを激しく叱責されたり」  未練を残しながら、結局は転職。ちょうどよく働ける場所で新たな職業を生活を始めたころ、再び「ストリップ」は彼女の前に現れた。SNSで知り合った女性10人が集まってのストリップオフ会が計画されたところ、Mさんも参加することになったのだ。ストリップの楽しみ方を教えてくれる「師匠」との出会いもあり、今度はどっぷりとその魅力にはまり込んでしまった。その時の心境は、同人誌の中でこう語られている。 「(中略)踊り子さんは自分の特性や嗜好を活かしたショーをしていた。個性の違いが楽しかった。愛おしかった。(中略)みんな違ってみんな良いのだから、自分も自由に生きていいのかもしれない、と自分に対して優しい気持ちになれた。こんな気持ちになったのはストリップ劇場が初めてだった」  むき出しの生身をさらけだす中で感じられる人間臭さ。それこそがストリップ劇場が観客に供する「物語」なのかもしれない。

黒井ひとみさんのデビュー8周年記念グッズ

次のページ
なりたかった自分が踊っていた
1
2
3
4
おすすめ記事
ハッシュタグ