Z世代を牽引する最注目アーティスト・雪下まゆの作品に漂う“不穏さ”の正体
一見、写真かと見まごうような生々しいタッチで都会の男女を描きつつも、どこか不穏さが漂うイラストで「今を切り取るアーティスト」として注目される25歳がいる。彼女の名は雪下まゆ。
――最初にアーティストを目指したのは、いつ頃だったんですか?
雪下:幼少期から絵を描くことは好きで、ぼんやりと将来は絵を描く職業に就きたいと思っていました。でも、美大受験を決めた高校3年生までは本格的に絵の勉強をしたことはなくて。部活も美術部ではなく軽音楽部でしたし。だから受験までは『多重人格探偵サイコ』の田島昭宇さんの絵を真似したり、授業中に自分の前に座っている同級生の後ろ姿をデッサンしたりして、日々を過ごしていました。
――「アーティストになる」という意識がより一層深まったのは、美大に入学してからですか?
雪下:大学の同級生に在学中から活躍している人が結構いて、「自分も何かしなきゃ」と刺激を受けました。そこで授業はほどほどに、毎日絵を描いてSNSにアップし続けていたんです。次第に、絵がSNSで呟かれるようになり、在学中から少しずつ仕事をいただくようになりました。
――昔はコンクールに参加したり、出版社に持ち込んだりという人が多かったと思うのですが、雪下さんは最初からSNS一本ですか?
雪下:私が高校生のとき、すでにpixivなどを介して仕事を得ているアーティストやイラストレーターの方が非常に多かったんですね。だから、社会に作品を発表して売り込む手段として、SNSを使うのは普通のことだと、私自身も自然に考えていました。
――卒業後はフリーで活躍されていますが、就職は考えましたか?
雪下:周囲も就活してるし、私もやらなきゃと1社応募したのですが、面接で落ちてしまって。自分はフリーランスのほうが合っていると就職はすっぱり諦めました。
――作風についても伺わせてください。初期の作風は、「江口寿史さんみたい」と言われるようなガーリーなテイストでしたが、徐々に写実的で重めのトーンに変わっていきます。なにかきっかけはあったのでしょうか。
雪下:大学に入って油彩を始めたことなどいろいろ要因はあるのですが、一番はモチーフを撮影する写真をデジタルからフィルムに替えたことです。私はモチーフをスナップ撮影して、それを見ながら絵を描くのですが、最初はその写真をiPhoneで撮影していたんです。でも、あるとき使い捨てカメラの「写ルンです」で撮影してみたら、光と影のコントラストや質感などがすごくよくて。それが、大きく作風を変えるきっかけになりました。
――描く対象は、どうやって決めているんですか?
雪下:刹那的な瞬間、ですね。たとえば、私は友達と遊んでいるときに撮影して絵にすることが多いのですが、友達は「明日は仕事だ、嫌だなぁ」と言いながらも、いつか終わりを迎える時間を全力で楽しんでいる。不安と希望、哀しみと歓び、複雑な心のうちが入り交じった、何げなくも二度と戻ってこないその瞬間を切り取りたいんです。
――そんな雪下さんの絵が、若い世代の支持を集める理由は何でしょう。
雪下:私が心の底で抱いている孤独や不安に、絵を通じて共感してくれる人が多いのかもしれません。私は小さいときからみんなが笑っていても一人笑えず戸惑うタイプで、「なんで生きていかなきゃいけないんだろう。世の中って不条理だな」と考えるような性格だったんです。そんなとき、暗めの不条理な映画を観ると「あぁ、世の中って、やっぱりこういうものだよな」と再確認できて、安心する。それと同じような感覚を抱く方が多いんじゃないでしょうか。
多摩美術大学在学時からSNSで発表していたイラストが10~20代を中心に支持を集め、著名なアーティストのジャケットや小説の装丁を手掛けるなど、多彩な活躍を見せている。そんなZ世代のアートを牽引する彼女の世界観をひもといた。
就職が向いていないから、SNSでフリーランスに
初期から画風が変わったのはフィルムを使うようになったから
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