更新日:2021年05月01日 15:13
エンタメ

<純烈物語>「観客の前で演る楽しさ」後上翔太を成長させた御園座の舞台<第94回>

毎日の積み重ねは歌で学んできたこと

「和服の所作とか歩き方とか、ずっとやっているベテランの役者さんからすれば全然足りないとなる。歩き方からまず直さないと……という話です。村人には村人の立ち振る舞いがあって、時代劇的なスッと立つというような動きはやるな、それは武士の動きだからということを言われました。  威風堂々とゆっくり歩くとか、大股の方が時代劇っぽいのにそれはやっちゃダメなんですよ。現代よりも身分制度がハッキリしている時代だから、そこをキッチリとやらなければならないという話をやさしく、ていねいに教えてくださるんです。だから朝決められた時間にいってお芝居して唄を歌ってという枠組を全うすることを意識したし、その積み重ねが大事なんだなと。歌で学んできたことを、改めて実感しました」  スーパー銭湯ライブも営業のミニコンサートも、ステージの大小に左右されずやるべきことをやってきたのが純烈。それは水戸黄門の舞台になっても同じだった。エンターテインメントの根幹に必要な姿勢をこのタイミングで思い起こせたのは大きかったと、後上は頷く。  現代語と違う慣れぬ昔の言葉によるセリフは難しくなかったかと聞くと「そこはダメだったからよかったんです。ダメなら習ったことをそのままやろうという意識になれるじゃないですか。それでも忠実にはできてないんでしょうけど、今の言葉と違うから難しいとはならなかったですね」。こういった課題と、役者経験が豊富でなくとも向き合い、成長できた1ヵ月だった。

後上は俳優を目指したわけでないのにドラマ、舞台、そして映画に出演する役者に

 気がつけば後上は、俳優を目指したわけでないのにドラマと舞台、そして映画に出演する役者となっていた。このあたりにも、酒井がメンバーに選ぶさい決め手となった“運”が発揮されている。 「いつか演じることが楽しいなと思えるようになればいいなとは思います。ただ、ドラマや映画と比べて舞台における楽しいというは、お客さんのリアクションがじかに味わえること。そこはお芝居がということより、純烈のライブで育ってきたので、舞台もライブだからお客さんが目の前にいるありがたさが楽しんでしょうね。同じシーンで同じことをやろうと心がけているけど、日によって反応が違う。そういう部分の楽しさ。  それが、お芝居が楽しいということなのかステージでやることが楽しいのかは、どちらかというと後者だと思うんです。(撮り直しが効かないのと効くのはどちらが得意か)現状はお客さんの目の前の方がいい。自分が多少やっちゃってもそこの世界観こみであって、お客さんは初見ならば比較対象がないじゃないですか。映像だと台本が頭に入っていて、目の前の見ている人がみんな玄人ですから」  役者経験が浅い分、演技やセリフがうまくいかなくてもやり直せるドラマや映画の方が比較的楽だろうと思われたので、後上の答えは意外だった。「もう一回!」が重なると、スタッフから「あー……頑張ってよ」という雰囲気が伝わってくる。  そこは「大丈夫、もう一回いってみましょうと」と気遣われるよりは「てめえ、フザケんなよ!」と怒鳴られた方がいいのだという。さらに、録ったあとも編集や音楽によって「助けられている」のが自分でもわかる。いや、そう受け取ってしまう。  それらを含めて一発勝負となるライブの方が合っていると後上は思うのだ。これをして“役者魂”と呼ぶのかどうかは、まだ自分でもわからないが。  東京お台場 大江戸温泉物語のステージから眺める風景と、御園座で水戸黄門の世界観に酔いしれる観客の顔がつながった。後上はオーディエンスの前で表現できる喜びを感じつつ、歌詞を忘れたことを他人のせいにするリーダーへ楽しげに突っ込んでいた。 撮影/ヤナガワゴーッ!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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