「ケンカができないヤツでも戦えるルール」誕生の背景
MC正社員
――漢さんの自伝『ヒップホップ・ドリーム』で面白いなと思ったのは、MCバトルの大会を立ち上げるとき、「俺が高校時代から経験してきた危なっかしくてガチンコなストリート系ラップバトルの雰囲気を残しつつ、ケンカができないヤツでもフリースタイルで自信を持って戦える新しいヒップホップ・ルールを共有したMCバトル」という構想を漢さんが持っていたことでした。なぜそのような大会にしようと思ったのでしょうか。
漢:俺自身がゴリッとしてたし、MCバトルというエンターテイメントでは「
相手をビビらせて勝つ」という演出がどうしても出てきちゃう。でも、「俺が出てみたい客側の人間だったら、その状態じゃ出られないヤツが沢山いるな」と思った。
ラップはマイク1本を武器にして、みんなに平等にチャンスが与えられるものだと俺は思ってる。貧乏だろうと、金持ちだろうと、天才だろうと、バカだろうとね。だから「どれだけ多くのタイプの人を大会に引っ張り出せるか」ということを考えた。
正社員:今ぐらいナードな人とか普通の人がMCバトルに出てくると思ってましたか?
漢:思ってたよ。ナード系のラッパーは向こうにだっているし、日本でも実際にやっているヤツを知ってたから。ダメレコ(Da.Me.Records)だったり、大学生のクルーだったりね。そいつらにすべてのルールを合わせる必要はないけど、「俺らがゴリゴリしちゃうと本領発揮ができずに負けちゃう」とはしたくなかった。「あいつらも本気出すとヤバいじゃん」となったほうが面白いし、実際にマイク持つと男のコだから頑張るヤツは多いしさ。そういう力をどこまで引き出せるかだよね。
あとビジネス的なことを言ったら、今までずっとバトルを見ているヤツに向けて大会を続けても意味がない。
「どんだけフィールドを広げるか」が勝負じゃん。
正社員:それは僕がバトルに出会ったときに感じたこととホント一緒ですね。僕がハマった理由も、メチャクチャ怖い人のなかでDOTAMAさんとかPUNPEEさんとかダースさん(ダースレイダー)とか普通の人がラップしてたからですから。「これはスゴい!」って思ったし、これなら……
漢:
「俺も」って思うじゃん?
正社員:そうです。そう思って俺もバトルをやるようになりましたね
漢:そもそもMCバトルとかラップってそういうものなんだよ。ラップは特殊なトレーニングを受けた人がやるものじゃない。一般人がやるものだし、勉強できないヤツもやってるんだから。それだけでもう
「あ、俺にもできそう」って魅力感じるでしょ?
ラップを始めたころとかは、地元の超不良のヤツとかは最初バカにしてくる。でも、一緒に遊んでるうちに「ラップいいじゃん」って思うようになるし、ラップしてるヤツのライフスタイルを見たら「こいつウソついてねえな。自分なりに頑張ってんじゃん」ってなる。そのうち自分もラップを口ずさみたくなっちゃうんだよ。
<構成/古澤誠一郎>
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く