戦極MCBATTLE主宰・MC正社員が、MCバトルのシーンやヒップホップをビジネスやカルチャー面から語る本連載。
プレイヤーとして、そして大会のオーガナイザーとして、日本のMCバトルシーンを牽引してきた漢と、その姿に触発されて自身の大会を作ってきたMC正社員が、シーンの今と昔、そして未来を語り合う。
対談第三回の今回はスポーツ化や商業化の進むMCバトルシーンで、オーガナイザーやMCがサバイブするための方策を語り合う。
今のMCバトルは「スポーツ化されすぎた」
MC正社員(左)と漢 a.k.a. GAMI(右)
MC正社員(以下、正社員):「今のバトルシーンは漢さんが思い描いた理想通りになっていますか?」
漢 a.k.a. GAMI(以下、漢):「ちょっと
スポーツ化されすぎたよね。でも、
誰でもチャンスがある大会になってさえいれば、それは
悪いことじゃない。
ただ俺は、違和感のあるバトルは好きじゃない。『
お前、日頃から“さん付け”で呼んでいるんだから、さん付けすればいいじゃん』みたいなさ。何も考えずにバトルで相手を『
お前』って呼ぶのは、ひとつの型でしょ。そうやって型にはまらないと勝てないヤツはいるから」
正社員:「漢さんがそうやって勝つバトルは死ぬほど見てきました」
漢:「俺がいまバトルで負けるときは、
バトルがスポーツ化されすぎたことに敗因があると感じることが多い。でも
自分がMCバトルのシステムを作ったことで今の状況が生まれたと思うし、本当のラップのスキルを競う場所になったことは『
それでいいじゃん』とも思ってる」
――それ以外に最近のMCバトルにはどんな変化を感じますか?
漢:「ヒップホップが一般層にまで広まったことで、これまでヒップホップの文化でアリだったことや、その文化の中で法に反していたことを、
一般人が一般人の道徳で普通に批判できるようになったのも変化。『
これが俺にとってのヒップホップなんだよ』という話が通じなくなってきたよね。
そこの教育はもう少し必要だと思う。なぜかといったら、
一般社会と同じじゃつまらないから。普通の社会と同じように、バカなヤツとか悪いヤツの立場が弱くなったら、
それはもうヒップホップじゃなくなると俺は思う。かといって、ナード系ばかりを縮小させても平等じゃないし、そのバランスって難しいんだよね」
――漢さんは「全国にネットワークを持つヒップホップ連盟を作ること」という野望を持っていると聞きました。
漢:「この社会のなかでヒップホップの存在を確立させるための組織を作りたいと思ってる。まだまだヒップホップはマイナーな存在だし、特殊な音楽だと思われてる。だから
テレビにも音楽業界にもナメられてるし、
MCは食っていくのが難しい状況にある。
だから、メディアに出るときや作品を出すときの交渉を手助けする
組合や連盟があってもいいと思う。あとは
プロの不良に絡まれたときも、組合があればトラブルを回避できるかもしれない。そういう横のつながりを作って、
自分の持っていないものを持っている人間同士が協力できる組織を将来的に作りたいなと」