あえて競合イベントと提携するメリットとは
――テレビ出演するにも、芸能事務所に所属しているとギャラが数十万出るのに、無所属だと文化人枠扱いで数万円……なんて話はよく聞きますよね。無所属のラッパーはメディア出演で稼ぐのも難しい状況なのかなと想像します。
漢: 「そうそう。急にギャラが変わったりする。そういう芸能事務所的な機能を持った組織もあってもいいと思うね。そうした組織づくりで、一番早く具現化できると思ったのがMCバトル。だから
KING OF KINGSはほかのMCバトルの大会と連携してきた。
これは正社員にも何度も話したし、各大会に話していることなんだけど、KING OF KINGSが『
ENTA DA STAGE 2020代表』『
SPOTLIGHT2020代表』『
戦極 MC BATTLE 第21章代表』という形で出場者を集めているのは、まずエンターテインメント性を高めたいから」
正社員:「言ってましたね」
漢:「各都道府県で予選をやるのもいいけど、東京に住んでるヤツが埼玉県代表になるようなケースもあるし、エリアで区切るのも難しい。だったら『どの大会のチャンピオンが一番か』という形式で看板を背負ってもらったほうがわかりやすい。それで各大会のアタマに話して協力をしてもらった。
そのメンバーで会合を重ねて協力していけば、それが組合の第一歩になると思う。どこかのイベントが
金銭面で苦しくなったら組合金で賄って助けたりとか、いろんなことができるようになるはず」
漢:「ただ、ヒップホップの世界で生きてきたヤツらは、大人の社会のドロドロした部分を知ってるからこそ、誰かと仕事をすると勘ぐりや警戒心を持ちやすい部分がある。社会の表側に出てこないヤツも多いし、組織の仕組みを作ったり、未来予想図を描いたりするのが下手なヤツも多い。『
俺らも大人なんだから外の社会のいいところを取り入れようよ』って話しても素直に聞かないやつもいる。だから組合ができるのは何十年も先になるかもしれないけど、そういう組織ができないと日本のヒップホップは商業的に絶対に成功しないと思う。
――メインストリームへの不信感が強いんですね。
漢:「『
じっくり聞いタロウ』というテレビ番組に出たときに、この話をしたら、
石井館長(K-1創始者の石井和義氏)なんかは凄い乗り気で、『
俺は成り上がりが大好きだし、組合やったほうがいいよ。協力するから』と言ってくれた。そうやって大人が相手だと話が早いんだけど、そういう人たちは本人がプレイヤーじゃないから、協力してくれるのは組織ができてからになる」
――一人ひとりが個別に頑張るだけでは限界があり、ヒップホップ・シーン全体で上を目指していかないといけないと考えているわけですね。
漢:「そうそう。正社員だって組織を作って仕事をしてるからわかると思うけど、まず身内をまとめるだけでも大変なんだけどね」
正社員:「大変ですね」
漢:「それでも俺が組織を作りたい理由は、一人じゃ絶対につまらないから。クルーをやってても、一人だけが成功してほかのみんなが成功しないと、成功した人も結局は孤独になる。『
俺が稼いでカネのないヤツにペイして終わりだな』みたいな気分にもなる。そういうクルーにいると、自分も潤わないし、ほかのヤツらも潤わない。
俺はお互いに甘えるのもいいと思うけど、甘えるんだったらメンタルの一線を超えて『
みんなで上を目指してこうよ』という
意識の共有はほしい。それがないと俺らは大人に食われて終わっちゃうし、
対等な関係を作れないから」