衆院選を前に、投票を呼びかける若者たちの気運が心強い
岸田首相は10月14日午後に衆議院を解散。31日に行われる衆院選を「コロナ後の新しい未来を切り開いていけるのは誰なのか」を選ぶ「未来選択選挙」と位置づけた。政治の話題がタブー視されがちな日本だが、若い世代に投票を呼びかける活動が盛り上がりを見せている
一本釣りというのは松方弘樹的な文脈では鯔背(いなせ)なのだけど、水商売の世界ではやっかみ半分、軽蔑半分といったところであまり肯定的に受け取られる事態ではない。
一人の太客から月に何百万円も売り上げて維持するナンバーワンよりも、客単価が安く指名本数が多いほうが価値が高いのはそれはそうで、だから良いホステスやホストはデカデカと公表される売り上げ順位よりも、小さく表彰される指名本数のほうで見分けたほうがまだ間違いは少ないのだけど、世の中は汚いので、地道に稼いだ客数よりも一人からどれだけ搾り取ったかにより大きいトロフィーが与えられるものである。
そんな世の中でポイズン、お金に関係なく一人一票が与えられる選挙の季節がきた。衆院選の投開票が31日に迫り、新聞各紙が世論調査に基づく序盤情勢を報じている。
新内閣発足から10日と露骨に急いで衆院を解散し、新首相へのご祝儀ムードでなんとか逃げ切ろうとする与党だが、現在のところ各紙で議席減少の分析が有力で、候補者一本化を進めた野党の共闘が、ここからどれだけ切り崩せるか注目される。
特徴的なのは主に若者に投票を呼びかけるキャンペーンがいくつも立ち上がり、それなりの盛り上がりを見せていることだ。
小栗旬や菅田将暉など人気俳優が多数参加し、次々と「投票します」「投票します」と口にする動画の他にも、若い広告クリエイターらがプロジェクトを立ち上げたり、投票した人向けの音楽イベントが企画されたりと話題を集めている。
もっとも内向きの広報に、なんで「VOICE PROJECT」とか「#vote_forプロジェクト」とか「GO VOTE JAPAN」とか「Go To VOTE」とか、いちいち英語なのかという微細な疑問はあるものの、政治と宗教の話題を嫌ってきた日本のポップ文化界隈と、意識の高さを競う若者の振る舞いが良く折衷されている気がする。 米ハリウッド界隈のように具体的な政策や政党に支持や反対が言えなくとも、投票行動自体の呼びかけであれば誰にも文句は言われない。かつて辺野古関連の発言で不当なバッシングを受けたローラも安心して参加できる。 そして投票率を上げること、さらに若い世代の投票率を上げること自体は十分に批評性を持つ。若者の投票率が低いことで後押しされてきた既得権益があるのだ。 「中立こそ美徳、少なくとも無難」と信じさせ、政治的発言や活発な議論を封じてきた土壌があるこの地だが、沈黙と無思想は中立ではなく、その土壌をつくってきた権力者たちへの無批判な従属である。 コロナ禍で必然的に社会保障や政治そのものへの関心が高まっている時に、最初は無難なところでもいいからタブーを外していく機運は心強い。その上で、若者の政治参加意欲を削ぐ大きな一因である選挙制度の問題にも長期的目線で切り込んでいくべきだろう。 ただでさえ少数派の意見が死にやすい小選挙区制度は今回も多大な一票の格差を生み、住んでいる場所によって太客と細客に勝手に分かれてしまう。日本の選挙報道が投開票日の夜にならないと盛り上がらない問題は近年指摘されているが、通常時こそ盛り上がるべき小選挙区制の問題や一票の格差の議論はなぜかいつも選挙前に思い出したように報じられて選挙の季節が過ぎると忘れられる。 ※週刊SPA!10月26日発売号より ’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中
投票行って外食するんだ
10月31日は衆議院選挙。一票じゃ何も変わらないと思うかもしれない。けれど、その一票の集まりで社会は決められてきました。
— VOICE PROJECT 投票はあなたの声 (@tohyo_koe) October 15, 2021
投票は、あなたの声です。それは、届けるべき声です。わたしたちも、ひとりひとり悩み考えながら、投票へ行きます。
#わたしも投票しますhttps://t.co/2uG5o0K30F pic.twitter.com/u95776jQYD
もっとも内向きの広報に、なんで「VOICE PROJECT」とか「#vote_forプロジェクト」とか「GO VOTE JAPAN」とか「Go To VOTE」とか、いちいち英語なのかという微細な疑問はあるものの、政治と宗教の話題を嫌ってきた日本のポップ文化界隈と、意識の高さを競う若者の振る舞いが良く折衷されている気がする。 米ハリウッド界隈のように具体的な政策や政党に支持や反対が言えなくとも、投票行動自体の呼びかけであれば誰にも文句は言われない。かつて辺野古関連の発言で不当なバッシングを受けたローラも安心して参加できる。 そして投票率を上げること、さらに若い世代の投票率を上げること自体は十分に批評性を持つ。若者の投票率が低いことで後押しされてきた既得権益があるのだ。 「中立こそ美徳、少なくとも無難」と信じさせ、政治的発言や活発な議論を封じてきた土壌があるこの地だが、沈黙と無思想は中立ではなく、その土壌をつくってきた権力者たちへの無批判な従属である。 コロナ禍で必然的に社会保障や政治そのものへの関心が高まっている時に、最初は無難なところでもいいからタブーを外していく機運は心強い。その上で、若者の政治参加意欲を削ぐ大きな一因である選挙制度の問題にも長期的目線で切り込んでいくべきだろう。 ただでさえ少数派の意見が死にやすい小選挙区制度は今回も多大な一票の格差を生み、住んでいる場所によって太客と細客に勝手に分かれてしまう。日本の選挙報道が投開票日の夜にならないと盛り上がらない問題は近年指摘されているが、通常時こそ盛り上がるべき小選挙区制の問題や一票の格差の議論はなぜかいつも選挙前に思い出したように報じられて選挙の季節が過ぎると忘れられる。 ※週刊SPA!10月26日発売号より ’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中
『おじさんメモリアル』 哀しき男たちの欲望とニッポンの20年。巻末に高橋源一郎氏との対談を収録 |
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