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戦う哲学者・中島義道が見たコロナ禍「人生の真相みたいなものがはっきりした」

 “戦う哲学者“として知られる中島義道さん。『私の嫌いな10の人びと』『働くことがイヤな人のための本』(新潮文庫)をはじめ多くの著書には、現代社会で当たり前とされていること、常識・美徳、素晴らしいとされていることなどを真っ向から問い、人間の本質と照らし合わせた批評が多く綴られています。
中島義道

“戦う哲学者“として知られる中島義道さん

 その中島さんは、このコロナ禍をどう過ごし、どんな思いを抱いていたのでしょうか。今回はその思いと「つけるべき抵抗力」について聞きました。

人生の不平等な理不尽さをコロナ禍ではっきり感じた

——中島さんはコロナ禍をどう過ごしていましたか? 中島義道(以下、中島) 普通に過ごしていました。私は現代の人たちについて、ほとんど興味がないんです。私の場合は「哲学」ですから「遊ぶ」とか「イベント」とかがなくなっても特に支障をきたすことがない。もともと人混みが嫌いだし、野球、相撲、音楽会とかああいうものは今の100分の1くらいで良いと思っているくらいなので。 「哲学」を学ぶ人は割と変わった人が多くて、中には引きこもりみたいな人もいるんだけど、そういう人にとっては良いなとも思いました。哲学を学んでいる青年から「先生、なぜ人って外に出たがるんでしょうか」って聞かれたりしたけど、彼が抱いたような疑問を浮き彫りにしたのもコロナ禍だったからだと思います。  また、コロナ禍によって「人生の真相」みたいなものがはっきりしたなとは思いました。 ——どういうことでしょうか。 中島 「結局人は偶然で死んでしまう」とか。感染経路もわからないまま、死んでいった人が多いですからね。私はいつも本に書いていますが、あっという間に人間は死んでしまいますし、どれだけ立派に生きていても死んでしまうし、交通事故で死んでしまうこともあります。新型コロナウイルスだって「道徳的に悪い人」がかかるわけではなく、偶然性によって誰でもかかるものなんですよ。  一番言いたいことは、人生とか人の一生はとても残酷で、不平等で、理不尽だということです。そういうことがコロナ禍で改めてはっきりしたように思いました。
カントの書斎

中島さんが主催する哲学塾カントの書斎

コロナ禍で多くの人のエゴが露呈したのは良いこと?

——そういう切羽詰まった状態になると、人は自分のことばかり考えるようになるような気もします。「自分だけが助かりたい!」というエゴ丸出しのような。 中島 その通りじゃないですか。私なんかすごいエゴイストだし、私の仲間たち……哲学者とか画家とかも、ものすごいエゴを持っている人ばかりです。自分でもウンザリするくらいの体内エゴイズムがある。でも、私にとってはそれはごく自然なことなので、特に問題とは思いません。  ただ、人間のエゴにおいて一番の問題は「何の利益がなくても他者を苦しめることがある」ということです。「プライド」「自分の正統性」「正義」とかを盾にしてね。昔、豊臣秀吉なんかも、自分の子どもに「謀反(むほん)だ」という噂が立った際、一族全員殺したりしました。  こういうことは動物にはないことで人間特有の話ですが、こういう「他者を苦しめる」エゴはさておき、自分自身と向き合うエゴは意外と居心地が良いものです。  逆に私は、エゴの強い人じゃないと、なかなか付き合いにくいんです。なんかみんな一見穏やかそうに見えるけど、それが欺瞞的に映って。その意味ではコロナ禍で多くの人のエゴが露呈して、残酷さが出るのもまた良いのではないでしょうか。  日本人って、耐える力がすごいですよね。電車が止まって帰宅困難者が出ても暴動にはならない。黙々と歩いて帰ります。仮に財布を道端で落としたとしても、お金が入ったまま戻ってくることがあります。こんなこと、ヨーロッパやアメリカでは考えられないことですよ。向こうの人たちからすると感動的な話になると思うけど、こういう耐える力、誠実な民族性を持つ日本人が、エゴのような残酷さを剥き出しにすることは良いと思います。 ——良いんですか? 中島 誠実な面と、そうでない面というのは本来表裏一体で誰もが持っているものですよ。それがコロナ禍によって露呈したのであれば、悪いことではないと思います。
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人間の偶然性を「自分で選べる」と錯覚させるのは残酷
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音楽事務所、出版社勤務などを経て2001年よりフリーランス。2003年に編集プロダクション・decoを設立。出版物(雑誌・書籍)、WEBメディアなど多くの媒体の編集・執筆にたずさわる。エンタメ、音楽、カルチャー、 乗り物、飲食、料理、企業・商品の変遷、台湾などに詳しい。台湾に関する著書に『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)、 『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『台湾迷路案内』(オークラ出版)などがある

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