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迫り来る改憲提案。護憲派はいま、何をすべきか?<慶大名誉教授・法学者・小林節>

自民党の9条改憲案を精読すべし

 自民党が本当に改憲したいと考えている「本丸」は9条である。  2012年の改憲草案では、「国防軍」の保持とフルスペックな(つまり限定されない)「自衛権」(自衛目的の交戦権)の行使(つまり「海外派兵の正当化」)を提案している。  これは、現行9条の下では、2項で戦力(軍隊)の保持と交戦権の行使が禁じられているために国際法上の「戦争」はできず、その結果、第二警察である自衛隊による国内で行う「専守防衛」しか許されない……という従来の政府見解を変えて、海外で普通に戦争できる軍事大国に戻りたい……という提案である。  しかし、自民党の本心だとしてもそれが国民の過半数に受け容れられる見込みはなかったので、自民党は、2018年に、9条に「自衛隊」と書き入れる新提案を党議決定した。しかし、これは一種の「隠し玉」である。つまり、これまで自民党は、「必要・最小限の」自衛だから憲法上許容される……と説明してきたにもかかわらず、今回の条文案では「必要な」自衛と書き加えるとしている。だから、これは「必要・最小限の自衛」から「必要な自衛」に権限を拡大する提案である。それでも自民党は、憲法に「自衛隊」と書き加えるだけで権能については何も変わらない……などと説明している。国防の根本問題について公然と嘘をつく政党を信用しろという方が無理である。  この問題については、中国による現実の国防上の脅威の前で、まず国防の基本方針について国民的合意を形成することが急務である。だから、国防に関する政策論争(つまり、米軍の二軍になるor専守防衛を強化する等?)を行い、国としての立場を定める。その上で、その結論と現行憲法の整合性を検討して、必要なら改憲論議に入って行くことになろう。その際、議論の主導権と決定権を握る自民党が何を提案してくるかについては常に注意を怠ってはならない。 <初出:月刊日本12月号> こばやしせつ●法学博士、弁護士。都立新宿高を経て慶應義塾大学法学部卒。ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。著書に『 【決定版】白熱講義! 憲法改正 』(ワニ文庫)など
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2021年12月号

【特集1】岸田政権よ、どこへ行く
【特集2】バラマキは財政破綻を招くのか


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