お金

借金500万円男。有馬記念で負けて高級ブランド店でバイトをする

皆イケメンだったが……

 派遣の仕事はほとんどの人間が初対面なので、大体最初にざっくりとした説明を行う。この仕事の目的、動き方、注意点。  円状に並んだ他のスタッフは全員モデルのような体型で、およそ180cm近い頭が整列している調和を乱しているのが僕だった。それぞれが今日の同僚を確認してキョロキョロし、僕を見る時だけ目線が下がるのに気づいて恥ずかしかった。  誰にも悪気は無いのだろうが、なんとなくバカにされている気がする。顔も皆イケメン揃いで高身長、今まで一度も不摂生をしたことがないような綺麗な肌も鼻につく。  僕だけが進化前の人間みたいだった。  仕事自体は行列の整理と入場に際した注意点のアナウンスのみで、かなり楽な内容だった。進化人間三人と共に出入り口に配置される。 「俺、もうおじさんだけど今日はよろしくね」  前職を辞めてからこの「おじさんジャブ」を頻繁に使うようになった。時間は過ぎるが派遣バイトの平均年齢はさほど変わらない。僕の周りだけが歳を取らないように思えた僕は、大学生が自ら、 「この人はおじさんとして扱うべきか、同世代として扱うべきか」  と悩み、おじさんだろうと決定してしまう前に、僕が自らおじさんであると告げることによって同世代に見える可能性を残すようになった。あまりにも惨めだが、この世に無料の自由は無いので仕方がない。 「お願いします!」  気持ちのいい挨拶に気が滅入る。もっと失礼で、もっと世間知らずであってほしかった。  卑しい願望と自分への失望が同時に襲ってくる。僕はここまで「カッコいい」ということにコンプレックスを抱いていたのか。  その後、僕は自分の懸念を決して悟られないように、彼らとなるべく会話をしないように仕事に没頭した。休憩も短めにした。もうこの日の目的は賃金よりも帰り道の彼らに 「あの人いい人だったな」  と思わせることだけだった。

英語を話してやろうと思ったのも束の間

 この日の現場は高級ブランドの主催だったので、外国人の客も来た。中には日本語が全くわからない人もいて、僕はここぞとばかりに前に出た。この背中を大きく見せるにはここしかない。海外でのホームレス経験をフル活用し、英語が話せるおじさんになろうと思った。 「あ〜・・・Ah,nh…」  あれ?いらっしゃいませってなんだっけ?勇み足の割にスッと英語が出てこない。  モタモタしていると、すぐに進化人間のうちの一人が隣に来た。 「Do you have a reservation?」  颯爽と現れた彼は外国人の客と軽く世間話のようなことをしながら極めてスムーズにエスコートをした。僕は隣で一歩引き、笑顔でそれを受け流す。 「僕、元々バックパッカーだったんで、英語は任せて大丈夫ですよ!」  誰にも負けていないのに、完敗だった。
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長袖を選んだワケ
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フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。 Twitter→@slave_of_girls note→ギャンブル依存症 Youtube→賭博狂の詩

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