お金

借金500万円男。仕事の合間にパチンコを打つ。そして1万円を手にする

―[負け犬の遠吠え]―
ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。 それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。 「マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は69回目を迎えました。  今回はギャンブルと人生のお話です。

ギャンブルの勝利と借金の完済

パチンコ ここ数年の活動の中で、僕を見て「借金はしないぞ!」と決意を固めたり、「借金を頑張って返そうと思います!」とメッセージを送って宣言してくる人が何人かいた。自堕落な生活を送る先輩としてその背中を温かい目で見守り、時に背中を押し、完済の報告を聞いて一緒に喜んできた。残るは僕だけだ。去年も、今年も、今も。  以前「ギャンブルでの勝利と借金の完済はどちらが気持ちいいか」と尋ねられたことがある。どちらも相当な快感を得られるのは確かだが、同じ物差しで測るのは難しい。何しろ質が違う。  ギャンブルでの勝利で得られる快感は、重くて短い。脳みその中が激しく動き回り、急速に細胞が入れ替わる感覚に陥る。多幸感が風のように体を通り抜け、思い出は強烈に残る。何度思い出しても色褪せないくらい鮮明で、他人に武勇伝を話す度に身体中が同じように喜ぶ。旅先で絶景を見た時に近い。人間の本能や野生に働きかけてくる、セックス、ドラッグ、ロックンロール型の快感だ。  一方、借金の完済をした時の快感というのは、強い解放感と達成感だ。長い呪縛から解き放たれ、ずっと目標にしていた景色に出会えるという期待で胸がいっぱいになる。ゴールテープを切る直前からカウントダウンを始め、あと一息、あと一歩が愛おしい。  それまでを振り返っても特に良かった思い出なんてないのだが、喉元過ぎれば火もまた涼し。熱さに耐えた苦痛の記憶は全てが過去になり、「あれは成長のための試練だったのではないか」と綺麗にラッピングされた余韻がぼんやりと手元に残る。マラソン型の快感だ。

人には2種類の快感がある

 人は本来、この2種類の快感を正しい順序で求める。例えば受験戦争、例えば就活、例えば会社のプロジェクト。愚直な努力と正しい生活の末にある一定の成果を得られた時、生まれてきて、頑張ってきてよかったと心から思えるだろう。  思えば、20代前半までに刷り込まれる一見ありきたりな幸せの形は全て「動物から人になるためのトレーニング」だったのかもしれない。野生の欲求を神から与えられし知能で抑えこみ、進化するためのトレーニング。  ギャンブル(特に頭を使わない運否天賦の要素が強いもの)は、この順番を完全に無視している。長い努力の道のりをすっ飛ばし、切れるはずのないゴールテープを切る一瞬を「賭ける」というただ一回の行動で再現する。  その金を手に入れるまでの時間が全てその一瞬に凝縮される。やったことは座ってボケーっと眺めているだけだが、その手に握られているのは間違いなく「努力の結晶」と同じ形をしているのだ。
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詭弁に詭弁を重ね……
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