更新日:2022年03月04日 09:25
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森友事件で自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さんに、落語家の桂佐ん吉さんが送った手紙

近畿財務局がある大阪の官庁街で偶然の再会

赤木俊夫さん(右)と、落語作家の小佐田定雄さん

赤木俊夫さん(右)と、落語作家の小佐田定雄さん(2016年7月18日~改ざんの7か月前~兵庫県立芸術文化センターにて)

 これがきっかけで、互いに会って食事や会話を楽しんだのだが、ご縁はそこで終わらない。雅子さんを主人公のモデルにした『がんばりょんかぁ、マサコちゃん』というマンガが、今年1月から週刊『ビッグコミックスピリッツ』で連載されている。そのマンガが結んだ偶然があるのだ。  マンガの連載が本決まりになった去年7月、マンガ家や原作者、編集者からなるマンガ制作チームが作品作りの参考にするため、大阪と神戸で3日間の取材旅行を行った。その一環で、俊夫さんの職場であり改ざんの舞台となった財務省近畿財務局を訪れた。一行が外から建物を眺めたり写真を撮ったりする様子を、同行した雅子さんが見つめていた。すると、そこに声をかける人が……。 「雅子さんじゃないですか!」  なんと、桂佐ん吉さんだった。 「雅子さん、何をしているんですか?」 「マンガ家さんたちを夫の職場に案内しているんですよ。佐ん吉さんは?」 「この先に用事がありまして向かう途中でした。それにしても偶然ですねえ」  近畿財務局がある一角は大阪の官庁街で、佐ん吉さんは普段あまり訪れない。雅子さんも用事がなければ来ない。普段この場所に来ない二人がここで出会うというのも不思議な巡り合わせだ。マンガチームも驚いていた。  そんなご縁で、今年の天皇誕生日には赤木雅子さんも佐ん吉さんの独演会に訪れていた。コロナの影響で終演後も出演者に会えない。私は、マサコちゃんのマンガを掲載した『ビッグコミックスピリッツ』の最新号を、繁昌亭の方から佐ん吉さんに渡してもらった。するとすぐ返事が来た。 「今日はお越し下さいましてありがとうございました! 漫画もいただきましてありがとうございます。続けて読ませていただきます」

俊夫さんが残した記憶が、いつでもよみがえってくる

安藤忠雄さん設計の上方落語協会

安藤忠雄さん設計の上方落語協会

「近くに寄っていきたいところがあります」  雅子さんに連れられて向かったのは、繁昌亭から大阪天満宮を通り抜け少し先にあるコンクリート打ちっぱなしの建物。 「これ、わかるでしょう」  そう言われて即座に答えた。 「安藤忠雄さん(の設計)でしょう。いろいろ見たんでわかるようになりました」  ここは繁昌亭に出演している落語家さんたちが所属する「上方落語協会」の建物だ。佐ん吉さんもここに所属している。 「夫はこの建物が好きで、繁昌亭に来るたんびに毎回ここへ見に来て写真を撮っていたんですよ。あそこ、建物の左の方に、縦に細長い窓と、少し上に横に短い窓があるでしょ。あれ、何の意味かわかります?」  じっと見つめて考えたがわからなかった。 「上方落語協会の『上』という字に似せているんだそうです。そういうことも全部、夫から教わりました」  俊夫さんは帰ってこないけれども、俊夫さんが残した記憶はいつでもよみがえってくる。俊夫さんに導かれるような不思議なご縁が、雅子さんのこれからの人生をいろどっていくのだろう。 文/相澤冬樹
無所属記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『真実をつかむ 調べて聞いて書く技術』(角川新書)『メディアの闇 「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相』(文春文庫)、共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)など
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