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安倍晋三氏が残したもの。“優しく繊細”か“冷徹で強権的”か/山口真由

日本中の感情をその身に集めた人

abeshinzo

出典:首相官邸ホームページ

 1発の凶弾からこの1週間、安倍晋三氏に関する本を読み漁っている。  面白いことに客観的な本は少ない。安倍氏を持ち上げる本が少々、その他多くは安保法制やモリカケをめぐる批判である。さらにいえば、「安倍政権」とタイトルにつけながら、自分の連載をただ単行本化したものも意外と多い。  なんとなくわかる気がする。本を出版する身からすると「売れるタイトル」がほしい。そして、「安倍政権」というキーワードは「〇〇が9割」とか「〇〇 2.0」と同じように、読者を惹きつける強いキーワードだったのだろう。  そう考えると、大好きであろうと大嫌いであろうと、安倍氏ほど日本中の感情をその身に集めた政治家はいないだろうと思うのだ。  だが、安倍氏に関する本を読めば読むほど、私は彼がわからなくなる。安倍晋三像は2つに分かれたまま、なかなか収斂していかない。  これほど周囲から慕われた人はいないという。 「同じ空気を吸いたいというか。寂しがり屋でもありましたので、そばにいてやりたい。とにかく行ってみようと」そう語る菅義偉氏の目には涙がにじんでいた。約7年8か月という長期にわたる第二次安倍政権を官房長官として支えた彼は、安倍氏を最も近くで支えた側近の1人である。そして、歴代最長の政権を可能にしたのは「チーム安倍」の力だといわれる。  個人のカリスマにおいて小泉純一郎氏に軍配を挙げる人も、「この人のために死んでもいい」と心酔する人の多さでは安倍晋三氏に勝る人はなかなかいないと口をそろえる。高圧的なイメージを抱かれがちではあるが、会合の席では隅の方にたたずむ人にまで目を配り、話しかけ、巧みな話術でその場を盛り上げる安倍氏は、人を惹きつける才能があったという。
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1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任

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