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安倍晋三氏が残したもの。“優しく繊細”か“冷徹で強権的”か/山口真由

左右のイデオロギーを超えて残したもの

 私はこれこそが安倍晋三氏の最大の凄みではないかと思うのだ。  小泉政権の下で、副官房長官、官房長官から幹事長へと出世のはしごを駆け上がった安倍氏は、大臣経験などすっとばして、52歳という戦後最年少でこの国の首相となった。だが、上り坂が急角度であるほどに、下り坂も急勾配。閣僚らに相次ぐ不祥事や「消えた年金問題」で支持率は急落した。ご自身の美学か、抱える病をあえて任期中には公表していなかったために、政権を投げ出したかのような外観は、当時、相当批判的に報じられた。  反主流派とはいえ、政治の名家に生まれたプリンスにとって、浴びたこともない罵声を受け、自身の中でも最も大変な選挙を経験したことだろう。だが、彼はそこで決して折れなかった。  “落ち目”の政治家から離れていく人々。そこから政治のリアルを学び、持って生まれた育ちの良さに加えて、「昭和の怪物」と呼ばれた祖父をも彷彿とさせるスケールの大きさをまとい、次の政権で大きく飛躍する。  これは左右のイデオロギーを超えて、私たちすべてにある種の希望を与える。  それぞれの生まれた星の強さはもう決まっているような気がしてしまう。安倍晋太郎氏、谷垣禎一氏など、頭もいい、人もいい、だけど星が弱いという場合が、確かにこの世にはある。実際、総理に選ばれなかった晋太郎氏に、安倍派の中堅議員だった当時の小泉氏は「だからあんた、甘いんだよーッ!」と暴言を吐いたという。  私自身も、自分の星は決して強くないと思う1人だ。どれだけ逆立ちしても、小泉純一郎とか、織田信長とか、あの手のカリスマにはなれないと自分で自分の可能性を諦めている人も多いはず。「敷かれたレールに」と口にする前に自分を奮い立たせよう。自らが生まれた星までも塗り替えた人物として、安倍晋三氏は永遠に私たちの記憶に刻まれるだろう。 文/山口真由
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任
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