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安倍晋三氏が残したもの。“優しく繊細”か“冷徹で強権的”か/山口真由

当時の党税調会長を一本の電話で解任

 一方で、例えば、安倍氏が総裁だった2013年、自民党はTBS「NEWS 23」の内容が偏向していると抗議して、党幹部への取材や番組出演拒否を表明した。選挙を控えたこの段階での出入禁止は異例の強硬な措置ともいえる。  人の気持ちに寄り添う繊細な人物と敵味方を区別する強権的な人物。どの角度から光を照らすかで、見えてくる安倍晋三像は揺れる。  昨年12月の茂木派パーティーで「同期一番の男前は岸田文雄、一番頭が良いのは茂木敏充。そして一番性格が良いのは安倍晋三と言われていた」と述べて会場を沸かせた安倍氏は、もともと父・安倍晋太郎氏譲りの性格のよさで知られた。  直に知る人の多くがそう語るとおり、優しい人なのだろうと思う。  だが、第二次政権の安倍氏はその評価では終わらなかった。父・晋太郎譲りの人柄の良さに加えて、祖父・岸信介譲りのしたたかさを身につけたといわれる。  結果、自身に逆らった者には人事においてそれに見合う処遇をした。例えば、2014年秋に安倍氏が打ち出した消費税増税延期。これに疑問を呈した党税調会長の野田毅氏は、翌年10月、安倍氏からの一本の電話で会長の交代を告げられる。「自民党をぶっ壊す」と唱えてタブーに切り込んだ小泉氏さえ手をつけかねたほど、長老派による重石となっていた党税調。その会長人事を、しかも、たった一本の電話で……。 「安倍一強」の象徴とされたこの出来事は、もしかしたら安倍氏が後天的に獲得した性格によるのかもしれない。思えば、ロマンチシズムに走った第一次安倍政権と異なり、第二次においては、現実を冷徹に見極め、ときとして厳格さや強権、そして妥協もいとわないリアリズムが加わった。
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イデオロギーを超えて残したもの
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1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任

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