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中国が台湾に本気のサイバー攻撃を仕掛けないわけとは?

より「見えなく」なっているサイバー攻撃

 最近のサイバー空間の出来事は、その背景をひもとかないとよくわからないことが多くなっている。最近、刊行した『ウクライナ侵攻と情報戦』では、ロシアとウクライナのサイバー空間の戦いをグローバルノースとグローバルサウスという軸で整理した。そして、「サイバー地政学」とでも言うような視座がますます必要になっている。  とはいってもサイバー地政学という言葉は、さほど普及しておらず、人によって使い方もまちまちのようだ。しかし、確実に言えるのはサイバー空間の出来事を理解するためには、サイバー空間の外の世界を理解しなければならなくなったということだ。まだ曖昧模糊とした言葉ではあるが、サイバー地政学の時代が来ているのだろう。  たとえばサイバーセキュリティの大手ベンダ各社は定期的あるいはテーマに応じて公開しているレポートの内容も変化している。これまではマルウェアやサイバー攻撃についての技術的な分析が中心だったが、じょじょにインテリジェンスや地政学的な知見を盛り込んだものになってきている。なぜなら、現在のサイバー攻撃、組織的サイバー犯罪の多くは国家が関与しているものが多く、その目的や意図を知るためには地政学的な理解が不可欠となるためである。

地政学的な視座が必要になったサイバー攻撃分析

 特に中国のサイバー攻撃には地政学的な目標と関連があることが多く、国家目標や経済施策などを含めて考えないと全体像がわかりにくい。中国の一帯一路の状況を理解していなければ、その地域で起きているサイバー攻撃の意図も理解できないと言ってもよいだろう。  たとえば、今回のウクライナ侵攻のサイバー空間での攻防をまとめたマイクロソフト社のレポート「Defending Ukraine:Early Lessons from the Cyber War」はサイバー攻撃も取り上げていたが、その中心はデジタル影響工作だった。  これからのサイバー空間では、地政学的視点が必要になりそうだ。しかし、日本では国際情勢とサイバー空間の連動を調べている方が少ない。もともとグローバルサウスとサウスの狭間にいる日本に見えにくい世界がよけいに見えにくくなっているように感じる。 <文/一田和樹>
小説家及びサイバーセキュリティの専門家、明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。I T 企業の経営を経て、2 0 1 1 年にカナダの永住権を取得。同時に小説家としてデビュー。サイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『新しい世界を生きるためのサイバー社会用語集』(原書房)など著作多数
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ウクライナ侵攻と情報戦

海外研究機関の各種報告から読み解く、現代の情報戦最前線と民主主義の危機とは?



【お知らせ】 2022年9月20日に明治大学で「我が国で高まるサイバー脅威、インフルエンスオペレーション」というサイバーセキュリティ研究所主宰のウェビナーが開催されます(50名限定・参加費無料)。サイバー空間での世論操作、偽情報作戦、ネット世論操作、デジタル影響工作と呼ばれるものがテーマとなっています。 筆者・一田和樹氏のほかに、海上自衛隊でサイバー関連業務に従事し、在ロシア防衛駐在官、防衛省情報本部分析部課長、統合幕僚監部サイバー企画調整官などを歴任し、現在ベストセラーとなっている『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』(ワニブックスPLUS)の共著死者でもある佐々木孝博氏が、知見を披露してくれます。
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