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「ウクライナ侵攻」が加速させた、世界の分断と先鋭化

ウクライナ侵攻を契機に分断が加速した世界

ウクライナ侵攻 ウクライナ侵攻は、先進国=グローバルノース(欧米プラス日本、韓国)と発展途上国=グローバルサウスの対立でもあると、先日上梓したばかりの新刊『ウクライナ侵攻と情報戦』に書いた。   そんな中、2022年7月6日、スリランカが破産を宣言した。このことは、懸念していたグローバルノースとグローバルサウスの対立が深刻さを増していることを意味している。  ワシントンポストの記事によると、スリランカの経済状態はもともと悪化しており、時間の問題だったが、ウクライナ侵攻によって崩壊が加速したという。  また、OXFAMのレポートでも、多数の国民が飢餓に苦しんでいるソマリア、エチオピア、ケニアなどでも、ウクライナ侵攻などの危機によって状況がさらに悪化しているという。  同記事ではグローバルノースはウクライナに肩入れする一方で、貧困国への支援を後退させており、それがさらに問題を深刻にしていると指摘している。我が国を見てもウクライナからの難民への対応はよいが、それ以外の国からの難民にはそこまでよい対応ではない。相手国への支援も同様だ。

グローバルノースが選んだ選択肢

 ただ、助けようにも資源や資金には限りがある。無尽蔵に必要な国に与えることはできない。これは言わば、「ウクライナと発展途上国のどちらを助けるかというトロッコ問題」であり、先進国の国々=グローバルノースはウクライナを助けることをためらいもなく決めたように見える。  もちろん、本当はトロッコ問題ではない。どちらにも支援は可能なのだが、グローバルノースはグローバルサウスへの支援をこれまでも充分にはしてこなかった。ウクライナ侵攻でウクライナに対する手厚い対応と、それ以外の支援が必要な国にしてきたことの差が浮き彫りになった。ロシアや中国はこうした問題につけ込んで、さらに分断と対立を煽るように仕向ける。世界保健機関(WHO)の事務局長は2022年4月13日に、世界は黒人と白人の命に等しく注意を払っておらず、エチオピアやイエメンなどの人道危機にはウクライナに向けられる注意のほんの一部さえも向けられていないと発言した(参照:時事通信社)。これからますますグローバルノースとグローバルサウスの分断は広がってゆく危険がある。
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陰謀論や極右コミュニティに浸透するロシア擁護論
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小説家及びサイバーセキュリティの専門家、明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。I T 企業の経営を経て、2 0 1 1 年にカナダの永住権を取得。同時に小説家としてデビュー。サイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『新しい世界を生きるためのサイバー社会用語集』(原書房)など著作多数
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ウクライナ侵攻と情報戦

海外研究機関の各種報告から読み解く、現代の情報戦最前線と民主主義の危機とは?

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