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日本だけじゃない「政党カルト汚染」。その背景にあるもの

カルトに侵食されるアメリカ共和党

トランプ支持者 2021年1月6日にアメリカで大統領選の結果に不満を持った暴徒が合衆国議会議事堂に乱入する事件が起きた。  500人以上が訴追され、死亡者も出た大事件である(RNC votes to condemn Cheney, Kinzinger for serving on House committee investigating Jan. 6 attack on the Capitol by pro-Trump mob、Washington Post、2022年2月3日)。クーデター未遂とまで言われた暴動の中心になったのはQAnonや白人至上主義など、いわばカルトグループだった。  そのほぼ1年後。2022年2月にさらに衝撃的な事件が起きた。アメリカ共和党全国委員会が、アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件を「合法的な政治的言説(legitimate political discourse)」であり、同事件を議会が調査するのは「一般市民への迫害」であると圧倒的多数で決議したのだ。言うまでもなく、共和党はアメリカ2大政党のひとつであり、多数のアメリカ市民が支持している。その政党がカルトグループなどによる暴動を「合法的」と決議したことは多数のメディアが取り上げることとなった。  実は共和党の4人に1人はカルトグループQAnonを信じており、逆にQAnonは共和党を好意的にとらえ、民主党を否定的にとらえる傾向があったという調査結果が出ている(The Persistence of QAnon in the Post-Trump Era: An Analysis of Who Believes the Conspiracies、Public Religion Research Institute、2022年2月24日)。  共和党の前大統領のトランプだけが特別だったのではなく、共和党全体がカルトに親和性が高くなっていたのだ。

カルトの台頭の背景にあるSNSエコシステム

 カルトが急速に力を増した理由はさまざまだが、その中でも無視できないのがインターネット、SNSでの活動だろう。  インターネットが普及する前は、仲間を集めることに地理的、物理的な制約があったが、それがなくなった。さらにSNSプラットフォーム各社がこれらのグループに甘かった。フェイスブックがアクセスを稼ぐ陰謀論者、白人至上主義者、極右といったグループを特別に優遇していたことが昨年フェイスブック・ペーパーで暴露されて大スキャンダルとなった(Top outlets (sort of) team up to make Facebook’s awful month worse、コロンビア大学のColumbia Journalism Review、2021年10月25日)。  グーグルはウクライナ侵攻が始まった際、ロシア政府の関連メディアへの広告出稿を停止したが、親ロシアの陰謀論、白人至上主義などへの広告出稿は引き続き行っていた。アメリカ国内にあるこうしたグループの上位200は、毎月100万ドル(約1億3千万円)の広告収入を得ており、その70%はグーグルからのものだった。さらにクラウドファンディングなどの寄付などの収入を合わせると2倍以上の収入がある可能性も高い。この資金を元に新しいメンバーのリクルーティング、武装化を進めている。  こうした事実はさまざまなレポートで指摘されている。また、先ごろ上梓した『ウクライナ侵攻と情報戦』でも触れたように、インターネットにおける世論操作を代行する民間企業も増加しており、それらもSNSの拡散を活用しているのが現実だ。
ネット世論操作の目的、ツール、手法

ネット世論操作の目的、ツール、手法

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なぜQAnonら陰謀論者はロシア支持をいち早く表明したのか?
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小説家及びサイバーセキュリティの専門家、明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。I T 企業の経営を経て、2 0 1 1 年にカナダの永住権を取得。同時に小説家としてデビュー。サイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『新しい世界を生きるためのサイバー社会用語集』(原書房)など著作多数
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ウクライナ侵攻と情報戦

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